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「それでいい」
考え込むを不意に背後から抱きしめる慣れ親しんだ腕。
「お前は情報屋だ。殺し屋じゃない」
「・・・良かったの?」
その問いは母親に向けられたものだ。一番苦しんだのは俺じゃなく母親なのだから。
「いいのよ、それで。どうせ今頃知り合いに痛めつけられて殺されてるんじゃないかしら?」
・・・正直に言おう。母さんはやっぱり極道の妻だ。根性がそこらの女とはまるで違う。生半端な人生は送っていないことがひしひしと伝わった。
「さて、次はあなたの番よ、晴。言ってないことまだあるでしょう?」
その視線は確実に俺の背後の男に向けられていた。
「あー、と・・・これは、秕夏樹で知ってると思うけど比良手組の組長で、俺の、・・・恋人、です」
「恋人、ねぇ」
スッと鋭く細められた視線が夏樹を射貫く。初めて見た見定めるような表情はやがて諦めたような色合いに変わった。
「孫が見られないのね」
「ちょ、何言っ、」
「晴の子供なら絶対可愛い子だと思ってたのに。でも仕方ないわね。育て方も悪かったから女はあまり好きじゃないでしょう?それに、仁成君と若菜の息子なら問題ないわ。大切にしてくれるんでしょう?」
「当たり前だ。これは俺のだ」
「おま、黙れ馬鹿!!」
唐突にそんなことを言ってのける夏樹の頭を引っぱたきながら文句を言う。それにぎょっとしたように目を見張って驚くのは周りに居たほかの男たちだ。
「なぁ晴、そいつがキレる前に謝っておいた方が良いと思うよー?」
そう遠慮がちに助言したのは蛍だ。
「は?なんで?」
「それな、仁裳会きっての暴君だよ?何されるか分からないよー?」
何されるも何も、こいつはたぶん今のところ俺に手を出すような真似はしない。
「・・・何かするの?」
「あ?何もしねぇよ、アホか」
それでも一応聞けば返ってきた答えは呆れが含まれていたからやはり蛍の思い過ごしなのだろう。俺がこいつに何かされるとしたらセクハラぐらいじゃないだろうか。