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「こいつに構うな。馬鹿が移る」
「ふはっ、ひどいなぁ」
完全に酔っているのかゲラゲラ笑う姿には組長の威厳も感じられない。こんな人間が組長で新蘭組は大丈夫なのだろうか。
「おいくそ兄貴、頼むから夏樹さんの機嫌損ねんなよ?」
「…あ」
「よお、晴。この間ぶりだが、見違えるようにボロボロだな」
「うるせぇよ」
どこからともなく現れたのは陽大だ。蛍を足蹴にした陽大は悪びれもなく笑う。何が見違えるようにだ馬鹿野郎。…ん?
「兄貴?」
「おいおいしっかりしろよ、情報屋。コレ、一応、誠に残念ながら兄貴な」
言いながら蛍の隣に腰を下ろした陽大は下っ端が持ってきた酒を飲みながら不意に夏樹を見てから苦笑した。
「なんすか。その怖い顔」
「お前、勝手に呼ぶな」
「ふはっ、嫉妬ですか?じゃあ藤宮ならいいんでしょう?」
笑う陽大は確かに蛍に似ていて血の繋がりを感じた。よくよく見れば顔も似てなくはない。笑った時の目元なんかはそっくりだ。
「嫉妬深いと嫌われますよ」
「こいつが俺から離れるわけねぇだろ」
「惚気は結構です。ていうか−−ー」
ガタン!!
不意に屋敷のどこからか大きな物音がして、思わず夏樹の腕の中でびくりと震えてしまう。そんな俺に夏樹はあきれたような視線を向けていた。
「見るな馬鹿」
「黙れびびり」
ガッシャン!!ガタッ!
「…え?何?俺じゃないよ?」
思わず先ほど暴れていた自分を思い出して当たり前のことを言ってしまう。
「下っ端共が喧嘩してんのか?」
さすがに大きすぎる物音に隼颯が眉を顰めると同時に派手な音を立てて扉が開かれる。
「組長!敵襲です!!女が乗り込んできっ、」
ガタン!!!
「邪魔よ!」
遠くから鋭く飛んできた女の声に部屋の中にいた数人が反応した。
「ふっ、ははは、そうきたか」
突然笑い出したのは部屋の奥で静かに酒を飲んでいたパパさんだ。そしてその横でお酒を注いでいたママさんは泣きそうな顔をする。そして俺と言えば何も言えずにただ目を見開き固まっていた。
「晴君、行っておいで」
優しいパパさんの声に促されるように重い体を動かして立ち上がれば支えるように夏樹が背後に回る。