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「下がってろ」
部屋に来た途端そんな命令で部下を追い出した夏樹は二人きりになった途端、小さく苦笑した。
「拗ねんなよ。悪かったから」
何を言うでもなく謝罪をした夏樹は布団に包まる俺に近付くとそのまま同じように布団に潜り込んでくる。
「…次はないから」
「ああ。もう少し寝てると思ったんだけど」
「…寒くて目が覚めた」
言えばすぐさま額に伸びてくる手は少し冷たい。
「また熱出たか?少し熱い」
まだ安定しない体調が申し訳なくて、それでもその手に擦り寄ればすぐに引き寄せてくれる夏樹に安堵する。
「ごめん、すぐ治す」
「ゆっくりでいい。とりあえず寝とけ」
撫でる夏樹に甘えるようにしてその体温を感じながら目を閉じる。すぐに眠りに落ちた俺を撫でながら夏樹が神妙な顔をしていたことなんて気付かなかった。
「っ、は、くそっ」
どうしようもなく不快な夢を見て飛び起きた。脈打つ心臓がうるさい。そのうえ冷や汗で服が湿っていて気持ちが悪い。
病院にいる時から繰り返し見る記憶の夢。もう1週間になるというのにまるで忘れようとする俺を嘲笑うかのように付き纏ってくるのだ。
「っ、」
吐き気を堪えながら隣にいるはずの人間を探して、そこでようやくその人物が消えていることに気づいた。
「あの野郎、一度ならず二度までも…!」
悪夢を見るのは夏樹が消えるからだ。あの事件から俺はすぐ傍に安心できる人間がいなければ悪夢に魘されるようになってしまった。それはこの1週間で夏樹もわかっているはずなのに。
「許さん」
未だにうるさい心臓を落ち着かせるようにしながら握り締めた掌は微かに震えていて、それが余計に許せない。
こんなことで怯えるほど弱くなった覚えはない。あれは夢で、これが現実。だから怖くなどないのに。
「…なつ、き」
吐き出した声は弱々しくて、そんな自分に嫌気がさす。そもそもあの男はどこに行きやがったんだ。全部居なくなったアイツが悪いだろう。
「覚えてろよ」