淡い果実 | ナノ
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「…なんて、残忍な」

「残忍?どこが?なんならお前の命で俺の最高の残忍さを味合わせてやるよ?…内蔵抉って、腸引っ張り出して頭蓋骨噛み砕いて…楽しそうだな、食わせろ」

「あなたはいつから人食い狼になったのです?」

「はっ、狼は肉食だけど?不味いから食わなかっただけだろうが」

そう、不味いから。食えないことはない。だから、喰った。

「仕方ないよね、俺狼だもん。お前らと違って純血だから獣の本能が強いのは仕方ないよね?お前ら間違って殺しても、問題ないよね?」

「…自分が何言ってるか分かりますか?」

「うん、人としてはもう生きていけないね」

だって、ニアでさえ驚いていた。それもそうだ。ニアの前で人殺しなんてなるべく見せなかったし、見せざるを得ないときはもっとスマートに行っていた。そもそも狼型で攻撃を仕掛けたことなんて数える限りだ。こんなに獣の本能剥き出しで噛み砕いてそれでこんなこと言ってんだから下手したら怖がられてしまうかもしれない。

それでも。

「俺はね、嫌われても構わないんだよ。必要とされなくても、大事なものが守れればそれでいい!俺のすべてを使ってでもお前たちを許さない!」






「…飼い狗がほざくな」






「っ」

息が止まったのはどうしてだろう?低く凍てついた冷たい声。一瞬にして頭をよぎる地下室の実験。数々の暴行を、強いてきたのは。

「…ベリウム」

「誰に向かって口を聞いてる。まだ仕置が足りないのかこの駄犬」

「…相変わらずだな、お前の犬になった覚えはない」

「なあ、お前にいいこと教えてやるよ」

「あ?聞きたくねえよ」

王家の俺にさえ敬語すら使わず罵るこの男は俺が唯一、一族の中で簡単に手だしできない男だ。だって、従兄弟だし。そして俺を監禁し苦痛を味合わせるよう命じた張本人だ。

「ソラの捕獲が終わった」

「っ、は?」

「今頃はお前と同じ目にあってるだろうな」

「おま、なに、は?」

動揺が、驚きが、困惑が勝って言葉にならない。だって、どういうことだ。兄は行方知れずで。俺でさえ探せなかった。本気で探したのに、見つからなくて。

「王家には変わらねえよ。先祖返りでなくとも、逃げ出したモルモットの代わりは必要だろう?」

笑顔でそんな残酷な言葉を紡ぎながら近づく男にただ呆然としてしまって動けない。

「やめ、なんで…」

「なんで?まだ分からないのか?…全部お前のせいだろ」

そうして耳元で囁かれた言葉に一気に血の気をなくす。

「ウィラ、耳を貸すな」

すっと近付いたディオがベリウムを蹴り飛ばしながら立ちすくむ俺を守るように立つ。

「お前のせいじゃない」

「…う、ん」

返事はしても頭の理解が追いつかない。兄を捕獲したと。モルモットの代わり。それは俺がそうだったように監禁していると、そういうことにしかならない。

「…何が望み?言いなよ」

「そうだな、お前がそこの双子を裏切って自分の手で殺して王として国を再建することだな」

「…その後は?」

「ああ、勿論お前はモルモットのままだ」

「…だろうね」

この男が簡単に俺を手放す訳が無い。

「悪いけどそんなつまらないものに乗る気はないよ。大体俺があの子達を裏切るとか有り得ないから」

たとえ双子が俺を必要としなくても俺が勝手にあいつらを守る。それだけだ。

「…血は繋がっているな」

「なに?」

ボソりと小さく呟かれた声は放心していた俺にはうまく届かなかった。それでも忌々しげに吐き捨てられればこちらだって苛立つ。

「とりあえず、」

「…ウィラ」

「殺すね」

「ウィラ!」

再び飛び掛ろうと足に力を入れた途端それを遮るようにディオに尻尾を掴まれた。

「うわ!?ちょっと、離し「いい加減にしろ」

「っ、」

凄むように、低い声に言われて体が強ばる。背後から俺を押さえる男はただイラついていて。怒りたいのは俺の方だっていうのに。

仕方なく一度深呼吸をしてしっかりと現状を把握する。そしてようやく気付いた。

「っメア!!!」

ザクの腕の中でぐったりとしている妹の呼吸が異常に乱れていることに。一瞬にしてベリウムから興味を無くしザクが身を守るために張った結界に向かおうとした俺を、足止めするようにベリウムが素早く回り込む。

「邪魔だ!!」

怒鳴り、それでも尚邪魔を使用とする男に腹が立ち本能のままに飛びかかる。流石に危険を感じたのか素早く獣化した男を背後に押し倒し動けないように両腕を爪で固定する。

「…大人しくしてろ、駄犬」

「黙れ」

本能のままのしかかりその首に噛み付く。鋭い牙が肉を貫くこの感覚は嫌いじゃない。痛みに顔を歪めたベリウムをさらに痛め付けようとしたところで同じように首に鋭い痛みが走る。

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