線と線 | ナノ

線と線

「カリム先輩、お久しぶりですね」
「ユウか? ああ、久しぶりだな!」
 あの頃と何一つ変わらない。変わらなさすぎて拍子抜けだ。はあああと深い溜め息を吐き出して、手を差し出した。
「先輩、案内しますよ」
「ん?」
 戸惑う先輩を無視して、手を握る。かさりと、あの熱い国を思い出させる乾燥した、厚い手のひらだった。
「迷うと行けないですから」
「ああ、そうか……何回か来た覚えはあるんだけどな?」
「ははっ、流石ですね。でも普通何回も来るところじゃないですよ」
 さらりと恐ろしいことを言うところも相変わらずだ。軽口を返して、どんどん進んでいく。
「そうなのか?」
「はい。まあ案内できるのも途中までなんですけど」
「そうか! 残念だな。久々にユウと話ができると思っていたんだが……ここ最近は家に来るのを止めていただろ?」
「そうですね。迷惑かけるわけにもいかないので」
「気にしないぞ?」
「それは、カリム先輩だけですよ」
 ジャミル先輩あたりには確実に何か言われる。さらりと、しかし確実に心を抉る小言を思い出して顔をしかめた。
「ははっ」
「先輩?」
「ジャミルのことを考えていたのか?」
「……考えてません」
「そんな顔をするのはジャミルといるだけだった」
「元からこんな顔ですよ」
「そうだったか?」
 楽しげに笑うカリム先輩には敵わない。
「……ジャミル先輩はあと百年は元気そうですね」
「それはいいな!」
 眩しい笑顔を眺め、眩さに目を伏せる。どうしてこんなにも、この人は綺麗なのだろうか。立ち止まり、耳を澄ませば微かに水の音が聞こえる。
「ユウ、どうした?」
「先輩を独り占めしたくなって」
「いつでもしてくれてよかったんだぞ?」
「うわあ、」
 思わずこぼれ落ちた言葉にカリム先輩は笑う。
「もう一度誘われたら頷いてもいいと思っていた」
 そして、冗談か、本気か分からないことを言う。

『――一緒にあっちの世界に行きませんか?』
 それは遠い、過去の話。精一杯のプロポーズだった。結果は分かりきっていたけれど。

「何度誘ってもきっと先輩は断りましたよ」
「そうかもなあ。……でも、今はどうだ?」
 言葉を探して、顔を両手で覆う。欲を出して会いに来るんじゃなかった。震える手のひらを下ろし、先輩の顔を見つめる。しわくちゃな顔だ。会わない期間がどれ程長かったのか。ぼんやり考えながら、目尻に深く刻まれた笑いジワを見つめ微笑んだ。
「こっちの世界は先輩には退屈ですよ」
「そうか!」
「また、どこかで会いましょう」
「会いに来てくれるか?」
「先輩が人を愛すのなら!」
「なら、また会えるな!」
 いつの間にか川岸まで来ていた。どこからか現れた小舟に先輩は乗る。
「お元気で」
「愛してるぞ」
「ええ! 私も!」

2020/6/28

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