悪友と悪臭と悪音と | ナノ

アンソロ『ムホウチタイ』寄稿

悪友と悪臭と悪音と

 煙草と酒と、何かが混じった臭いのする部屋で、俺と織田と安吾の笑い声が響く。時計の針はとっくに十二時を回り、この部屋の香りが良い臭いにさえ思えてきた頃、織田の耳たぶに口元を寄せた。
「なあオダサク」
「なあに太宰クン? もう酔ったん?」
「まだまだ酔ってねえよ……あのなあ、俺様はあ……えっちしたくなった」
 えっち、可愛らしい響き。どう? と上目遣いで見つめれば、頬の赤くなった織田は軽やかに笑った。
「今からあ? ワシ吐くかもしれんで」
「萎えること言うなよ」
「あんごー太宰クンえっちしたいってえ」
「おい今からかよお」
 けらけら、げらげら。笑う二人を軽く睨み付けて、拗ねたようにそっぽを向けば「やらないとは言ってないだろ?」と安吾が俺の肩を掴む。「そやそや、早とちりはあかんでー太宰クン」反対側の肩を織田が掴み、三人が横に並ぶ。
「でもなあ太宰クン、ワシ今日はやらんつもりやったからワシのワシが全然元気ないんよ」
 内緒話をするように織田の方へ身体が引っ張られたと思ったら何の話だ。
「俺はいつでもイケる」
 きれいに立てられた安吾の親指が、冷ややかな織田の視線で、沈んでいく。
「安吾は黙っとき……だからあ、太宰クン、盛り上げてえな」
 甘えるような語尾。ようやく合点がいったが、すぐ行為に取りかかりたい俺としては不満だ。
「はあ? やってるうちに盛り上がってくるだろ」
「だめ! 太宰クンには情緒が足りん」
 情緒、そんなもの一度だってあった記憶がない。――初めて三人で寝たのも、今日みたいに溺れるほどの酒を飲んで、酔った勢いだった。誰が口付けを上手くできるのか、途方もなくアホらしい競い合いが発端で俺たち三人は交わったのだ。そして、その日初めて同性との性行為をして、俺は気付いた。気持ちよくなるためには必ずしも異性との交流が必要ではなく、同性同士でも充分に気持ちよくなれるということを。――あの日をきっかけに誘ったり誘われたりしていたのだが、「オダサクのオダサクを盛り上げて」などと言われたのははじめてて戸惑いながらも、「情緒が足りん」とまで言われて引き下がる俺様じゃない。
「見てろよ、オダサク!」
 シャツ、ズボンとパンツを脱ぎ去り、「ちょ、太宰クンもう半立ち」「ひゅーひゅー」余計な茶々は無視し、自身の性器に触れた。
 二人に見せ付けるように、擦っていく。誰が一番早くイケるのかなんて競争したこともあった。えっちだって何度もした。恥ずかしさなどどこかへ捨てた仲のはずが、普段より心臓が、五月蝿い。息が、もう上がっている。ぐちゅり、先走りの汁と唾液を溢し、擦る手を早めた。見せている、見られている。その事が、ひどく興奮させた。唾を飲み込む音さえも聞こえてしまう静寂の中、織田と安吾、二人を見上げ微笑めば上気した顔が映った。
「――えっち、しよ」
「それはズルいは太宰クン!」
「太宰ー、先イくなよ」
 織田の口付けに、蕩けた笑い顔を浮かべる。
「ほんまズルいわあ。何その顔。ほらディープなやつしよ。舌、出してえな」
「流石俺様だろ……ん……」
「うんうん、さすがさすが」
 こいつテキトーだ、そんな文句は織田の舌に絡み取られていく。歯茎が舐められ気持ちいい。お返しに甘く舌を噛んだ。
「そのままでいいから腰あげろー」
「んうっ!」
 太股を冷えた手で触れられ、思わず腰が上がる。
「おっ、いいな」
 いつの間にか服を脱いでいた安吾が後ろから抱き締めるように、のし掛かってきた。お尻になま暖かさを感じ、唇を離して織田のシャツのボタンを一つ外した。
「オダサクも脱げよ」
「みなサン、せっかちやなあ」
 やれやれという表情が、だらだらと汚れた口回りと赤く火照った目元のせいで説得力がない。ちゅうしたいな。ぼんやりとそんなことを思っていたら、急にお尻が強く握られ「ひあっ」と変な声が出た。
「そうだ脱げ脱げ」
「安吾! いきなりさわるなっ」
「ああ? いいだろ? 股、通すな」
「はあ? 通すって……うわ、ひあ、すれるう」
「きもちいだろ」
「んう」
 俺と股の間から通された安吾のが擦れる。緩やかな動きを感じながら声をあげていると、服を脱ぎ終えた織田が安吾の性器を掴んだ。
「あっ!」
 安吾の声が耳元に響く。
「まぜてえほしいわあ」
 俺と安吾のものを織田の手が優しく扱いた。
「んああ」
「オダサク、その手つきっ……!」
「いいやろ?」
「いいっいい!」
「サイコーだ」
 余裕綽々な織田の表情が悔しくて、こっそり織田の性器に手を伸ばした。
「ちょ! 太宰クン!」
「俺もオダサクの気持ちよくしてやるよ」
 ぐちりぐちりと織田のを掴みながら上下に動かし、織田の手は安吾のを扱ぐままで、安吾は「俺も頑張るわ」と俺の乳首を摘む。「んうう」「ああ」「ふあっ」三人が密集した中で、熱い吐息と艶かしい声が耳にかかった。
「なあ、ちゅうして」
「ワシ尻、触りたい。あんごー太宰クンの向きかえてえ」
「太宰、俺とチューするか」
 安吾の方を向いて、貪るように唇を合わせる。口外に溢れた唾液を舐めあげ、とろんと見つめ、もう一度唇を合わせた。
「ほんと好きだなあ」
「きもちいだろ」
「ああ」
「ワシもちゅー」
 「俺?」「俺?」俺と安吾が二人互いを指差せば、「あんご」と織田の人さし指が突きつけられる。俺を挟んで二人が口付けをする間、二人のものに触れた。
「おい、太宰」
「んもう、太宰クン」
 崩れるような笑顔を向け、もう一度あの言葉を呟けば、生臭い部屋に、低く乱れる音が響き渡るのはすぐだった。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -