ミラクルミルク | ナノ

ミラクルミルク

「先生の母乳が飲みたいです!」
 ぼろぼろ泣きながらこいつは何を言ってるんだ。いつもの我が儘だと聞き流そうとしても、出てきた言葉が衝撃的すぎて頭から離れない。俺の“母乳”? 母乳、その言葉を受け入れようとして無理だと、深く息を吐き出した。母乳とは、子を産んだばかりの母親から出るものだ。優しく肩を掴んで、諭すように声をかけた。
「太宰、補修室にすぐ行くんだ」
「どこも、汚れてませんっ」
「いや……」
「俺もはるおっぱい飲みたいんです!」
 おい、はるおっぱいってなんだ。何だか響きは良いが、俺の名前を勝手に使うな。ぐしぐしと泣き続けている太宰を見ていると、可哀想なやつだと速やかに補修室に連れていくつもりだったが、だんだん面倒くさくなってきた。
「……そうだな、お前の母乳を飲ませてくれるならいいぞ」
「ほんとですか!」
「ああ、ほんとだ」
 適当にそんなことを言えば、あの涙はどこにいったのか。すっかり笑顔になった太宰はらんらんと「約束ですからね!」と手を振って去っていく。力なく手を振り返しながら、無頼派の連中か井伏に太宰に注意しておけと伝えておこうと決意した。

 ──あれから数日のことだった。
「先生!」
 満面の笑みを浮かべた太宰。嫌な予感に身を引けば、腕を掴まれる。
「司書さんに頼んで母乳がでるようにしてもらいました」
 いや、何を言ってるんだ。この前から太宰の言葉は理解できないものが多すぎる。そして、司書……なんで、太宰の願いを叶えた? 混乱する頭の中、すり寄ってくる太宰からはひどく甘いにおいがして──酔う、そんな気がした。
「先生……」
 ゆっくりと、ベスト、シャツのボタンが外されていく。ボタンが全て取れれば、甘いにおいが強くなる。真白い肌に赤く熟れた乳首は、そこだけ浮いているように見えた。見つめれば、そこは、舐めてもいないのに濡れている。これが、母乳? 恐る恐る口をつければ、においと同じく、ひどく甘い味がした。
「んぅ」
「ん?」
「ふ、うあ」
「感じるのか?」
「いつもより、きもちい、です」
「そうか」
 優しく舌で乳首を転がしながら、下から母乳を絞り出すように揉む。普段よりも柔らかくなったように感じる胸を押せば、母乳があふれてきた。太宰の母乳は甘すぎるのに、喉が渇かないから不思議だ。もっと飲みたくなる。乳首の先を舌で抉り、ぢうっとわざと音を立てて吸った。
「ひっ、あ……あっ! ──あ、あ、あ……」
 ぴゅうと、勢いよく出てきた母乳が顔にかかる。ぶるりと大きく太宰の身体が震えた後、余韻を感じるように微かに揺れて、くたりと全身の力が抜けた。
「……イったのか?」
「…………………………はい」
 恥ずかしそうに顔を伏せる太宰の頭をくしゃりと撫でて、太宰の胸の周りに垂れた母乳を舐め始める。ただのシーツのシミになっていくのは、勿体ない。
「せんせ、せんせ、まって」
 慌てたような太宰の声に顔を上げれば「おれもっ、先生の母乳が飲みたいっです」と大きな声が返ってきた。忘れていた。何でこんな状況になったのか。原因は太宰の『先生の母乳が飲みたいです』その一言だった。そして、俺は『お前の母乳を飲ましてくれるならいいぞ』そう返したのだった。
 はあと溜め息を吐いて、胸元から顔を外す。上体を起こして、ベストとシャツを脱げば、とろんと熱に溺れた瞳で太宰が一点を見つめてくる。
「……いい、ですか?」
「そういう約束だからな」
 諦めたように両手を広げ、おずおずと触れた太宰の頭を見つめる。太宰はちうっと優しく口づけをするように、俺の乳首に口を寄せ、軽く吸った。
「ん……」
 むずがゆさに思わず声を出し、驚く。啄むように口を動かされると、しばらくして俺の胸から母乳が出始めた。何故という疑問は、もう無意味だ。母乳が出始めれば、太宰は赤ん坊のように、ちうちうと俺の胸を吸いだした。
「んう……ん……」
 普段なら感じない腹の底からぞわぞわする感じ。認めたくはないが、感度があがっている。
 俺の反応なんて気にすることなく、太宰は母乳に夢中になっていた。腹が満たされるまで、離そうとしないその姿は、本当に赤ん坊だ。
「太宰……だーざーい……」
「せんせ?」
 口端から俺の母乳を滴らせ、太宰はゆっくり顔を上げた。それを親指で拭えば、釣られた太宰がそのまま親指を口にする。
「っ……おい、」
「あっ、すみません!」
 もったいなくて……と、気まずそうな表情をする太宰の頬に触れ、顔を上げさせた。
「先生……?」
「乳の飲み合いは終わりだ」
 そう告げれば絶望をはっきりと表す太宰に苦笑する。しかし、もっとと強請ることはない。母乳を飲みたいと言ったときの勢いはどこにいったのか。前髪をかきあげ微笑めば、状況の分からない太宰は不安そうに眉を寄せる。
「──俺はもっと気持ちよくなりたくなった」
「え?」
 「ええっ!」と声を上がる太宰に長い口づけを落とせば、蕩けた瞳でこくりと頷いた。

2017/8/9

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