リーダー、一肌脱ぐ
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後ろから抱き締めた名前ちゃんの身体は想像した通り小さくて柔らかかった。ふわっと清楚なシャンプーの香りが鼻を掠めて思わず髪に鼻先を埋める。俺に抱き締められてからすっかり身体を固めてしまった名前ちゃんの髪の間から見える耳は真冬の風に晒されたように真っ赤になっていて、それでも俺は抱き締めた腕の力を緩めなかった。
ずっとこうしたかったんだ。恥ずかしがり屋の名前ちゃんは俺が思わせぶりな事を言う度「からかわないでください」と顔を真っ赤にさせながらはぐらかしていた。この調子だと、恋人になれるのはずっとずっと先のことなのだろうと長期戦を覚悟していた。他の男に取られることなんてさらさら考えていなかった俺は、一昨日の正くんから告げられた衝撃的な告白に珍しく取り乱してしまった。
「名前ちゃん……」
名前まで愛しいなんて末期だ。絶対に離したくない、そんな意味を込めてさらに力強く抱き締めれば彼女の手が控えめに俺の手に添えられた。離してなんかあげない。正くんには、絶対取られたくない。
「竜太朗さん、…痛いです」
「うん。俺、男だよ?」
「知ってますよ」なんていう呟きが聞こえた。知らないよ、名前ちゃんは何も知らない。抱き締めている理由とか、俺の気持ちとか、とにかく何も知らない彼女はとても残酷だ。
「だから、好きな女の子は抱き締めたいしキスしたい、それ以上の事だって……」
更に彼女が身体を強ばらせたのを感じた。でも止めてあげない。
「どうして正くんの告白はっきりと断らなかったの?」
なんとなくだけど感じていたことだった。でも正くんは名前ちゃんが好きだと公言している俺に何も言わないから俺も聞かなかった。なのについ先日名前ちゃんに告白したなんて言われて、そんなの反則じゃないか。
「考えさせてって、正くんに言ったんでしょ?なんで?正くんのこと好きなの?」
「わ、私長谷川さんに告白なんて……」
彼女を包んでいた腕を離して正面を向かせた。案の定真っ赤で、おまけに泣きそうな顔を見て多少の罪悪感が渦巻く。
「なんで名前ちゃんがそんな顔するの……」
「泣きたいのは俺の方だよ」彼女の首筋に顔を埋めて独り言のように漏らせばぎこちなく俺の後頭部に触れた手。
「正くんのとこ行かないで。俺の傍にいてくれなきゃヤダ」
長期戦を覚悟していた。名前ちゃんが振り向いてくれるまで何時までも待つつもりだった。中ちゃんにはヘタ朗と言われケンケンには鼻で笑われても名前ちゃんの事を想えば何てことなかったのに。他の男のものになってしまうのはだけは嫌だ。
「行かないですよ?」
「絶対?」
「絶対です」
「だって私竜太朗さんのことが好きですもん」先を越された告白に暫くフリーズしてしまった。まさか名前ちゃんが好きなんて言葉言ってくれるなんて妄想でしか有り得ないことだと思っていたから。
「………もっかい言って」
「もう言えません!」
なんなんだこの可愛い生き物は。両手で顔を隠してしまった名前ちゃんの華奢な指に唇を落としてもう一度抱きしめた。
「俺も、名前ちゃんが大好き」
「正くんよりずっと好き」と付け加えれば思い出したように顔を上げた名前ちゃん。
(私、長谷川さんに告白なんてされてません!)
(え、でも正くんが……)
(おー、やっとくっついたかお二人さん)
((………))
*あとがき
大変お待たせいたしました。企画リクエストも残り2つ、リクエストしてくださった方はもう見ていないかもしれませんが真心込めて(いらない)書かせていただきます!
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