20000hit企画 | ナノ
それは突然生ビールが運ばれてくると同時に
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地元千葉に帰ると必ずと言って良い程立ち寄る居酒屋があった。学生の頃から良く行くそこは仲の良い見本になるような夫婦が切り盛りする隠れ家的な場所で価格も良心的。金のない学生時代やまだライブをやっても赤字だらけの頃にお世話になっていた。あの頃に比べるとおじさんおばさんも失礼だが随分老けた。三人兄妹の末っ子だった名前ちゃんは随分大人になった。




「もう高校卒業したかー。なんか凄くオヤジになった気分」



「竜くん年齢は三十ピー歳だけど見た目全然若いから大丈夫!」



「フォローされたけどなんか傷ついた」



「そんなウジウジしないでよー。仮にも私の憧れのバンドなんだから」




ついこの間まで俺の半分以下の身長しかなかった名前ちゃんは今はしっかり高校を卒業し大学へ行きながらバンド活動もしている。俺らに憧れて、と言うか竜ちゃんに憧れて始めたと言う方が正しいかもしれない。パートはボーカルだしファッションの影響も受けているのは確かだ。別にそれがどうとかいう訳ではないのだけど、久しぶりに会った名前ちゃんが凄く大人になっていて、凄く綺麗になっていたから。昔から可愛らしくて俺たちの癒やしの存在であり将来良い女性になるんだろうと漠然とだが予想はしていたのだが、実際その成長した姿を見てみるとまるで別の人のように思えた。本当にあの、昔生ビールを俺に向かって頭からぶっかけた名前ちゃんなのだろうかと。




「正くんも生で良い?」



「頭からぶっかけないなら」



「ぶっ!?ぶっかけないから!て言うかあの時は竜くんに押されたの!」




急に顔を真っ赤にした名前ちゃんは注文を書いた伝票を握りしめて奥へ行ってしまった。昔から名前ちゃんと竜ちゃんは仲が良かった。良く顔を真っ赤にした名前ちゃんが黒い笑顔をした竜ちゃんに弄られているのを遠巻きに見ていたから。昔こそ年の離れた兄妹のようで微笑ましく眺めていたが、お互い大人と呼べる年になった今、昔と変わらないその光景を見ても何故か微笑むことが出来なかった。




「凄くない?正くんにビールぶっかけたのってさ、十数年前の話なのに名前ちゃん覚えてんだよ」



もう一度「凄くない?正くん」と俺に同意を求めてきた竜ちゃんはあまり爽やかとは言えない笑顔を浮かべてきた。他に客もいないというのに身を乗り出し顔を近づけてきた為反射的に身を引くが全く気にした素振りも見せず竜ちゃんは続けた。




「で、大人になった名前ちゃんはどう?結構可愛いよね。昔から可愛かったけど」



「竜ちゃんさー、もしかして……」




ため息混じりに呆れた顔を見せた俺が言いたい事を感じ取ったのか、乗り出していた体を椅子の背もたれに預け「分かってないなー」と腕を組んだ竜ちゃんに、俺のセリフだよと言ってやりたくなった。いくら可愛くなったからといっても、まだオムツから卒業したばかりの頃から成長を見てきた妹のような存在の女の子を明らかに女として見ている風な口調だったのだ。俺が呆れたくなる気持ちも分かるだろう。




「何が分かってないの?」



ゴトンとテーブルにジョッキが運ばれてきた。どうやら竜ちゃんの最後の一言だけが聞こえてしまったようだった。



「名前ちゃんは昔っから正くんしか見てなかったって話」



「はい?」
「えぇっ!?」



俺のリアクションは名前ちゃんの大きすぎる声にかき消されほぼ聞こえなかっただろう。さっきビールをぶっかけた話をした時の何倍にも赤みが強い顔を半分お盆で隠し、竜ちゃんに向かって口をパクパクさせている。




「何で言っちゃうの!?もう竜くんなんて嫌い!」



半泣きの状態にまで陥ってしまい竜ちゃんに罵声を浴びせた後、俺に一瞬だけ視線を向けてきた名前ちゃんに不本意ながら心臓が跳ねてしまった。冷静な思考とは裏腹に心臓は暴れているしそこから送り出されている血液が沸騰寸前な所為で体中が熱い。名前ちゃんが店の奥に消えて行っても暫くは動けなかった。




「妬けるなー」



「竜ちゃんまた名前ちゃんのことからかって、」



「違う違う。これ、ホントだから。いっつも正くんの事ばっかり見ててさ、面白いからその度にからかってたんだよね。赤面っぷりは今も健在」



タバコに火を付けて灰皿を引き寄せた竜ちゃんの一連の行動を目で追っていた俺は必死に理解しようとしていた。えーと、つまり…




「今も正くんばかり見てるよ名前ちゃんは。健気だよねー片思い歴十数年?」



「えーっと、……まじ?」



「まじ。てか気づいてない正くんにビックリなんだけど」




「でも、満更でもないでしょ」疑問系ではなく確認するように言った竜ちゃんに否定の言葉を言おうとしたが喉元で突っかかり出てこなかった。まだ名前ちゃんが女の子と言うより子供の頃から見てきたからイマイチ実感が湧かないが、あの名前ちゃんとこの名前ちゃんは同一人物で、あの名前ちゃんもこの名前ちゃんも俺を見ていたって。




「………まぁ、悪い気はしないかな」







(名前ちゃん昔から俺をプラのボーカルから引きずりおろして正くんのベースで歌うんだって言ってたんだよ)
(ふーん。女の子のボーカルってのも良いかもね)
(え、てか否定しようよ)





*あとがき
藍様、大変長らくお待たせいたしました!!と言うか未だにこのサイトに来てくださっているかは不明ですが、リクエストを頂いたのが去年の11月…単純に計算して5ヶ月待たせ!?有り得ないですねこんな管理人ぶん殴ってやって下さい。
リク内容としましてリーダーと有村さんの逆ハー、主人公はバンドのボーカルでということだったのですが、生かしきれずすみません!
読んで下さった方、ありがとうございました。










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