08
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「ねー、好きな子に恋人がいたらどうする?」
「竜ちゃんの好きな子彼氏いたんだ?」
「うん……」
この目ではっきりと見た。格好良いお兄さんだった。でも名前ちゃんへの気持ちに変わりはなくて、俺も諦めが悪い。俺は、諦めたいの?
「てゆーか、それを俺に聞いてどうすんの?」
「どうするって……」
「参考にでもするの?竜ちゃんの中でもう答えは出てるのに?」
正くんって鋭い。
俺は、誰かに諦めるなって言って欲しかったのかもしれない。名前ちゃんに恋人がいても、俺の気持ちにはそんなの関係ないんだ。諦められないよ。でも、進むには誰かに背中を押してもらわないと第一歩が踏み出せなくて、ひたすら足踏みしてた。
そうだ、正くんの言った通り、もう答えなんてとっくに出てる。
「おーい、行くぞ」
「どこ行くの?」
「焼き肉食べに行こうってみんなで話したじゃないですかー」
「あ、そうだっけ?」
外に出れば冷たい風が髪を揺らした。やっぱりあの夜名前ちゃんを一人で帰らせるんじゃなかった。
「夜は冷えるね…」
「もう秋だからねー」
「ここですここ!!2人共早くーっ」
異様にテンションの高いケンケンに呼ばれ駆け足でその焼き肉屋さんへ向かう。店に入ろうとしたとき横目に見覚えのある人が映った。何故だか気になって、失礼だとは思いつつも此方に歩いてくる二人組の男性の方を凝視する。俺の後ろにいた正くんもなかなか店に入らない俺の視線の先を目で追った。
「「あ!」」
反応したのは同時、あのお兄さん、名前ちゃんの家にいた人だ。お兄さんの方も俺のことを覚えていたらしく、声を漏らした。
そして自然な流れで隣にいる女性に視線がいく。綺麗で、少し派手な感じの人。二人の手は繋がれている。一体どういうこと?浮気?それしか考えられないと答えをはじき出した俺はお兄さんに向かって言葉を発していた。
「あんなに素敵な彼女がいるのに浮気ですか?」
「はい?」
「竜ちゃん!?」
名前ちゃんが、こんな浮気男のモノなんて嫌だ。初めて会ったときは、人当たりが良くてイケメンで、名前ちゃんが好きになっても可笑しくないと思ったけど、
「俺の方が名前ちゃんのこと、ずっとずっと好きなのに…」
「名前のこと好きなんですか!?」
「うわぁ!?」
ガシッと両肩を掴まれ吃驚しすぎてちょっとだけ飛び上がった。お兄さんの顔を見ればニヤニヤ笑ってる。え、俺、もしかしてバカにされてる?
「あいつ全く男っ気がなくて正直心配してたんですよー。ま、名前はまだ23だし結婚とか焦る年齢でもないから本人には言ったことないんですけど、いつ部屋に転がり込んでも問題ないくらい寂しい女なんで兄として心配で心配で。でもお兄さんみたいな格好良い人に好かれてるなんて、あいつも隅に置けないなー」
「…………は、はぁ」
これが所謂マシンガントーク。俺の話す隙も与えず、至近距離で唾が飛んできそうな勢いだ。そして、俺はとんでもない勘違いでこのお兄さんに失礼なことを言ってしまった。
「名前ちゃんのお兄さんだったんだ」
「彼氏だと思ってました?そして浮気してると?」
「うん。ごめんなさい。」
「良いですよ!頭上げて下さい!!それより、名前のことよろしくお願いします!」
「………うん」
名前ちゃんのお兄さんと焼き肉屋さんの前で別れた。なんだ、お兄さんだったのか。良かった。ホッとしたらなんだかお腹が空いてきて今日は焼き肉たらふく食べられそうだ。
「あー、寿命縮まった!まさか通行人に絡むなんて!!」
「俺も。まさか絡むなんて自分でも吃驚。」
「しかも竜ちゃんの勘違い!良い人で良かったよまったく」
「さぁ!焼き肉焼き肉〜」
「テンション急上昇じゃん」
今日、俺には、心強い味方がまたひとり増えました。
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