07
*************************
.
土曜日の朝、仕事は休みでお昼までゆっくり寝ていようとするあたしを邪魔する騒音がひとつ。
「お兄ちゃん!?」
「おーおはよ、いつもこんな遅くまで寝てんのか?」
「ってか何してんの?煩いんだけど」
「彼女と仲直りしたんだよ。今日の夕方戻るから、世話になったお礼に掃除」
どんなに喧嘩しても結局元サヤに戻るんだから最初から出て行かなきゃいいのに。でも、そんなふたりが結構羨ましかったりする。なんだかんだ言っても付き合い長いし、お互いのこと想ってるから。一方通行で、しかも間違った付き合い方をしてるあたしとは大違い。もう、繋がりなんかないけど。
「じゃあ、お風呂場もトイレもキッチンもピカピカにして帰ってね!!あたしまだ寝る!!」
「なにキレてんだよー?」
考えたらむしゃくしゃしてきて、こんな時は寝るに限る。お兄ちゃんは気を使ってくれたのか、耳障りな音はあまりしなくなった。
俺は今、初めて名前ちゃんの家に来ている。マンションと部屋の位置は前から知っていたけど、ドアの前まで来たのは初めてで、インターホンを押す為に深呼吸。だって緊張する。
今日の朝、ソファの下に落ちていたしおりを見つけた。丁度昨日名前ちゃんが座っていた辺りに落ちていた可愛らしいしおり。きっと手帳に挟まっていたのがあの時に落ちたのだろう。たかがしおりを届けに来たの?なんて思われるかもしれないが、捨てるなんて出来ないし、そのまま俺の家に置いておくのもなんだかなぁ。だから仕事行く前に名前ちゃんのマンションに寄り、返そうと考えた。
「よし、頑張れ俺っ」
ペチンと一発頬を叩きいざ、ピンポーンを鳴らす。
「はいはーい」
聞こえた声は低く、え、間違えた!?わたわたしているうちにドアが開き、結構イケメンなお兄さんとこんにちは。
「あ、の……苗字さん宅ですよ、ね?」
「あ、そうですよ!名前の知り合いですか?」
一人暮らしって言ってたのに、誰も居るはずのない部屋の電気が点いていた理由が分かったよ。彼氏、いるんじゃん。
「あいつ今寝てるんで、叩き起こして来ますね!」
「あ、大丈夫です。それじゃ、」
「いいんですか?」
「はい。すみませんでした」
お兄さんに背中を向けて歩き出す。少ししてドアが閉まる音が聞こえた。一階のロビーにある郵便受けにしおりを入れてマンションを後にした。
「バカ、ばかばか俺のばかっ…………それでも好き」
後ろの車のクラクションで、信号が青に変わっていたことに気づいた。
「送ってこうか?一緒に彼女に謝ってあげるよ?」
「バカじゃねぇの?」
昼過ぎに起きれば本当に部屋はピカピカになっていて少しお兄ちゃんのことを見直した。
「あ、忘れてた!朝お前に客来たぞ。あんな格好良い知り合いがいたんだな!」
「え?」
「それと、郵便に変なものが入ってたけど、一応他のものと一緒にテーブルに置いてるから。んじゃ、お邪魔しましたー」
「あ、うん。ありがと」
最後の最後に謎を残していった世話のかかる兄貴。格好良い知り合い?竜太朗さんしか思いつかないんだけど、それはないか。
部屋に戻りテーブルに置いてある郵便を見る。電気代の請求と、見慣れたしおり。このしおりは一番仲の良い友人と高校生の時お揃いで買ったもので、大事に使っている。手帳に挟んでたのに、これが郵便受けに入ってたの?
バックから手帳を取り出しパラパラと捲る。しおりはない。じゃあこれはあたしの?どうして?パラパラと捲っていた手帳に書いたあるメモが目に入った。゙10時〜会社説明会゙
昨日の事がフラッシュバックする。竜太朗さんに26日の予定を聞かれ手帳を開いたこと。もしかしたらあの時に落としたのかもしれない。それを今日竜太朗さんが届けて来てくれた…?お兄ちゃんの言ってた格好良い知り合いは竜太朗さんだったんだ。
「捨てられても可笑しくないのに、届けてくれたんだ…」
優しい、優しい………
「……………大好き」
*************************