05
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「竜太朗遅刻」
「ごめんって!でもたった5分だよ?」
少しうたた寝をするつもりがすっかり爆睡していた。顔も洗わず事務所に来たっていうのにさっきから責められっぱなしの俺って可哀想。
起きて、隣に眠る名前ちゃんを見たとき、今日は仕事休んじゃおうかな、なんて本気で考えた。名前ちゃんと結婚したら毎朝こんな風になっちゃうんだろうな。
って結婚ってなに考えてんの俺!早いってまだ早いよー!
「って早いってなんだ!?」
いずれ結婚するみたいなその言い方。
結婚かぁ……いずれ名前ちゃんも結婚しちゃうんだうな。俺以外の人のものになってしまうんだ。
「あー……やだなぁ」
「竜太朗さんどしたんすか?」
「あの子今思春期真っ只中ですから」
「どうしよう」
今日十数回目となる"どうしよう"をあたしは呟いた。目を覚ませば隣にいた竜太朗さんは僅かな温もりを残して消えていて、そういえば午後からお仕事だと言っていたことを思い出した。寝癖を手櫛でさっと整えて帰ろうとドアノブに手を掛けたときふと思った。
鍵、どうしよう。
勿論竜太朗さんが持っているはず。合い鍵がどこかにあるのかもしれないが、人の家を詮索するなどできない。でも鍵をかけずに帰るわけもいかない。もし、万が一空き巣なんかが入ったらなんて謝ればいいか。
電話をしてみたが一向に出る気配はなく、留守番電話に繋がった。お仕事中だから当たり前か。
そんなこんなで日も傾いてゆき、只今の時刻17:49。帰ることもできずただボーっとしていた。竜太朗さん何時に帰ってくるんだろう。夕食とか、作ったら迷惑かな。でもあたしの空腹も限界に近づいているのです。朝ご飯食べたっきり何も口にしてないから。
冷蔵庫を開ければあたしが手土産に買ってきたプリンが目に入った。これはダメ。竜太朗さんに買ってきたものだもん。
「もう18:30かぁ……帰ろうかなぁ」
第一ただのセフレがいつまでたっても自分の部屋にいるって竜太朗さんからすれば迷惑な話だ。今日は結局途中で止めちゃったし、もうあたしとの関係は終わらせたいのかもしれない。
「………帰ろ」
誰もいない部屋で呟いても引き止めてくれる人なんていなくて、いつもみたいに送ってくれる竜太朗さんの声も聞こえない。
玄関で靴を履きドアノブに手を掛けたところで、力を加えていないのに勝手にノブが動いた。
「あ、」
長い前髪の隙間から見える目は僅かに見開かれていて、もっと早く帰っておくべきだったと後悔。そりゃ、"なんでまだ居るの!?"みたいになるよね。
「まだ居たんだ」
「ご、ごめんなさい。鍵開けっ放しで帰るのは抵抗あったので、……もう帰りますね!お邪魔しました」
「あ、待って!」
竜太朗さんの手があたしの腕を掴む。どうして引き止めるの?早く、この場から立ち去ってしまいたいのに。
「留守番してくれてありがとう。スタッフさんに差し入れ貰ったんだ、沢山あったから持って帰ってきちゃった」
一緒に食べようと翳された袋からはまだ温かいであろうたこ焼きの匂いがした。グルグルと鳴り続けるお腹と、大好きな竜太朗さんの笑顔に釣られあたしは部屋へと戻った。
「わっ!」
「な、なんですか!?」
「この部屋名前ちゃんの匂いが充満してるー」
たった半日居ただけなのに!?あたしってそんなに異臭を放ってるのかな。自分では匂いって分からないから怖い。
「ファブリー○゙ありますか!?」
「消さなくていいよ。いい匂いだから。」
ソファに座りたこ焼きたこ焼きとリズムに合わせて歌う竜太朗さん。あたしは自分の匂いが気になって仕方ないんですが。いい匂いって言ってはくれたけど、本人に臭いなんて言えるわけないから気使ってたりするのかな。
「やっぱりファブリー○゙!!」
「え?まだその話?だから、名前ちゃんいい匂いだからいいの!」
「でも気になるじゃないですか!」
「そうだね。俺、今夜は興奮して眠れないかも」
こ、興奮!?一体何故興奮するというのだ。あたしの匂いにはそういう作用があるのか!?もうやだ、自分の匂いなんて。シャンプー変えてみようかと本気で改善策を考えるあたしに竜太朗さんは真剣な顔で質問してきた。
「俺、名前ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」
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