長編 | ナノ
36
*************************
.










長い前髪の隙間から微かに見える目があっちへ行ったりそっちへ行ったりしている。きっと言葉を考えているんだ。困る、のだろうか。今更好きだなんて言われても、竜太朗さんはもうあたしと同じ気持ちではないのかもしれない。
そんな事を考えていると、急に目頭に熱が集中し出して視線を落とす。つま先が滲んできて、どうしてこうも自分は弱いのかと嫌になった。沈黙を破ったのは竜太朗さんの言葉、ではなく携帯の着信音で、少しだけホッとした自分がいた。




「出ても大丈夫ですよ?」



「あ、ごめん…」




少しだけ落ち着いた気持ちは、瞳に溜まりだした水分も吸収してくれた。燃えるように熱かった体も、冷たい空気にジワジワと冷やされていく。

とうとう言ってしまった。てゆうか、やっと言えたって感じ。返事を必死に考える竜太朗さんを見ても不思議と後悔はない。


いつの間にか竜太朗さんの電話は終わっていて、携帯を閉じる音がやけに響く。髪を触り、終いには頭を掻き出した竜太朗さんに少しずつ恐怖が募っていく。一体何と言われるのだろうか。今更そんな事言われても困る、なんて言われたら、凄くショックだ。あたしは竜太朗さんに言ってしまったのだけど。そう考えるとあたしって最低だ。きっと凄く竜太朗さんを傷つけた。




「あー、………ほんと?」



「ぇっ…はい……」




髪を触っていた手で今度は口元を覆う。決してあたしと視線を合わせようとはしなくて、振られちゃうのかなー、なんてほぼ諦めていた時独り言のように竜太朗さんは呟いた。




「……泣きそ」




そして暫く沈黙が続く。泣きそうなんて、それはあたしの台詞ですよ。もう、今すぐにでも目の前に建つ自宅へと駆け込んでベッドへ潜り込んでしまいたいのに。




「やっぱ嘘でした、とか、……ナシだよ?」



やたら真偽を確認してくる竜太朗さんに、そんなにあたしの言うことが信用出来ないのかと少し悲しくなった。こんなこと、嘘なら絶対言わない。彼の問に深く頷けば意外なまでの答えが返ってくる。




「キスしたい」



「…えぇ!?」



「したい」




竜太朗さんはあたしの返事も待たずに近づいてくる。頬に手が伸びてきて、思わず目を瞑ればより感触がリアルになる。頬に触れた大きな手のひらとか、唇に優しく触れた竜太朗さんの唇とか。



「もう一回していい?」




久しぶりの竜太朗さんの温もりに今度は別の理由で目頭が熱くなる。ホント、久しぶりだ。こんな風に竜太朗さんが触れてくれるのは。それは以前と全く変わってない、優しいもので、大切にされていたのだと今更気づく。全部全部遅かった。今更気持ちを伝えて、今更気づいて。





「俺も、名前ちゃんが好き。ずっと大好きだった。」





二回目のキスの後、彼はそう言った。





















*************************

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -