長編 | ナノ
35
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「へっ、……はぇ!?…って、えぇ!?」



「おかえりー」




何時もより仕事が早く終わった日、名前ちゃんのマンションの前に車を停めて彼女の帰りを待っていた。この数十分で、タバコ一箱を空にしてしまった。最後の一本を車の外に出て吸っていた時、街灯に照らされた名前ちゃんが見えた。俺の姿を確認した彼女は案の定吃驚(というか軽く混乱)してて、それがなんだか可愛くて思わず綻ぶ顔を隠すのが大変だ。



「この前はごめんね?電話、切っちゃったみたいで」



「いえ、全然大丈夫です…」



「……」



そこで一旦会話が途切れた。電話してくるくらいだから、何か用があったのだろうと思っていたが名前ちゃんから何かを話そうとする気配はない。考え込んだように下を向いている。


「あの日はごめんね?ベッド占領しちゃって」



「もう体調は良くなりましたか?」



「うん、復活。あ、雑誌届いた?」



「はい。」



「ポラも、見た?俺も持ってるんだよね、ほら」




車に乗せたバックから本を取り出して間に挟んでいた俺と名前ちゃんが写ったポラを彼女に見せれば微かに見開かれた瞳。え、もしかして引かれちゃった?確かに何の断りもなく自分の写真を他人が持ち歩いていたら気持ち悪いかもしれない。うわ、しくじった!




「あの、あたしも……実は手帳に仕舞ってるんです…」



以前にも見た手帳を取り出した彼女はその中にある写真を見せて"同じですね"と言って笑う。"うん、お揃い"なんて言って俺も笑顔を返した。




「竜太朗さん……」



「ん?」



「ずっと話したい事があったんですけど……竜太朗さん熱出しちゃうし電話は切れちゃうし、なかなか話す機会が出来なくて」



「う、…ごめんね?」



「それは良いんですけど……はぁ、死にそう」



「え!?」




胸を押さえて深呼吸する名前ちゃんはとんでもない発言をした。死にそうって!!
そんな俺の心配をつゆ知らず、彼女は呑気に呼吸を整えた後、若干ピンクに染まった顔を俺に向ける。寒さで赤くなっているのか、また別の理由があるのか。変に期待しない方が良いことは分かっているんだけど、俺の心拍数は上がるばかりだ。


少し風が吹くだけで寒い。寒いはずなんだけどそれを全く感じないくらい今俺の神経は別の事に集中してて。揺れる髪が鬱陶しくて、でも緊張で指一本動かすのも難しいこの状況。何かを言いたげな名前ちゃんは唇を開いては空気だけを吐き出して、俯き考え、また俺を見てを何回か繰り返した後やっと言葉を発した。




「あの、……」




掠れた声が暗くなった住宅街で俺の鼓膜まで届く。上手く声が出なかった事が恥ずかしかったのか、名前ちゃんはまた唇を結んで俯いてしまった。ただ待っている事しか出来ない自分をぶん殴りたい気分だ。





「えっと……あたし、」




どんどん煩くなる心臓の音。体の内側から誰かに叩かれているみたいだ。





「竜太朗さんが好きです」





叩いていたのはきっと君。





















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