長編 | ナノ
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マフラーを口元まで巻いて寒さをしのぎながら帰り道を歩く。マンションについて郵便受けを開ければ見慣れない封筒が届いていた。差出人の会社の名前も聞いたこともなくて、何かのカタログだろうかと思いながら携帯を確認するが竜太朗さんからの連絡はない。昨夜電話をしたのだが呼び出し途中で切れてしまい、それから折り返しの連絡もないまま。酷い熱だったし、もしかしたらまだ寝込んでいるのかもしれない。心配だけど、家まで押しかけるのは流石に気が引ける。もう少し待ってみよう。





「……なにこれ、…雑誌?」



コンビニで買った夜ご飯を食べた後くつろいでいると、届いていた封筒が目に入った。何だろうと開けてみれば雑誌のような物が。表紙を見て吃驚、これは所謂ビジュアル系という方々なのだろうか。一緒に入っていた手紙を読んでみれば、竜太朗さんが所属している事務所からで、先日は急な頼みにもかかわらず代役のモデルを引き受けてくれたお礼が書かれていた。その時の雑誌が出来上がったので送ってくれたらしい。
ドキドキしながら雑誌をめくる。竜太朗さん一人のページがいくつか続いた後、あたしと一緒に写ったページの登場。お願いしていた顔を写さないで欲しいという希望はちゃんと伝わっていたようで、上手い具合に修正されていた。手を繋いだあたしと竜太朗さん。この時は緊張で手は震えるわ、変な汗が出るわで大変だった。インタビューもあるようでじっくりと読んでいく。最初は曲の話だったり、専門用語が多くてよく分からなかったけど、後半は近状だとかそういう話。そしてインタビュアーの人はあたしの事に触れてきた。




"今回一緒に撮影した女性は一般の方だとお聞きしましたが?"

"そうなんです。ウチのスタッフが騙して連れて来ちゃって。(苦笑)まぁ、僕の知り合いの子だったんですけどね。"

"では撮影も和やかな雰囲気で進んだんじゃないですか?"

"いやいや、それが緊張しまくりで!"

"相手の子が?"

"いや、僕が。(笑)でもここはプロの意地ですね。僕が緊張でガタガタになっちゃったら、彼女も更に緊張しちゃうだろうと。多分僕の緊張に彼女は気づいてなかったと思います。"

"有村さんでも緊張するんですね。"

"あの時は特別でしたね。彼女とは本当プライベートな知り合いなので、僕の仕事は見せたことがないんですよ。"



そこであたしに関しての話は終わっている。竜太朗さん、あの時緊張してたんだ。全然気づかなかった。
封筒にはもう一枚何か入っていて、見れば手紙サイズの封筒だった。表には不格好な字でベストショットと書かれている。竜太朗さんの字だ。中は一枚のポラロイド写真で、あの時のことを思い出す。緊張しているあたしを見かねて、少しでもほぐそうと練習と言って竜太朗さん自ら写真を撮っていて。その時一緒に撮った写真だろう、少しブレてるが笑顔の竜太朗さんとあたしが写ってる。宝物にしてもいいですか。

この写真を飾ろうか、それとも仕舞っておこうか、散々悩んだ結果、いつも持ち歩く手帳に挟んでおくことにした。無くす心配もなさそうだし、何より何時でも見れるし。





















「有村竜太朗、復活しましたー」



名前ちゃんに看病してもらい、丸1日睡眠を取った為完全復活した俺は1日ぶりに仕事へ向かった。
挨拶もそこそこに仕事にとりかかる。そんな俺に近づく細身の影がひとつ。



「ケンケンから聞いたんだけどさー、なんか昨日大変だったみたいだね」



「正くん……。大変ってゆーか修羅場だったよリアルに。」



「お疲れ。あ、苗字さんにさ、あの雑誌、一昨日発送したみたいだよ。竜ちゃんが用意してたポラも同封してもらったから」




一昨日発送したんだ。てことは昨日届いたはず。俺と名前ちゃんが載った雑誌。撮影の日に撮ったポラも記念として同封してもらった。俺も別のポラを持ってる。てゆーか持ち歩いてる。




「連絡した?」



「してない」




看病してもらったお礼と、スタッフが勝手に切っちゃったあの日の着信の折り返しと、送りっぱなしの雑誌の件。あー、お礼と謝罪と説明と、言わなきゃいけないことだらけだ。
一番言いたいことは、未だに伝えられないままなのに。まだちゃんと言えてない、好きって言葉。





















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