長編 | ナノ
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余りにも眩しい瞼の向こう側の光に耐えられなくなり目が覚めた。なんと直射日光が当たっているではないか。窓から見える太陽は既に真上近くまで昇っていて、今の時間がお昼近くだということが分かる。うわ、一晩中名前ちゃんのベッド占領していたのか俺は。寝室に彼女の姿はなく、というか人の気配すらしない。お仕事かな。
昨日より大分マシになった体を起こしベッドから出た。リビングにもやはり名前ちゃんはいなくて、代わりにテーブルにメモが残されていた。仕事に行ってくること、冷蔵庫にあるプリンと薬のことが簡単に書かれている。綺麗な字を暫く眺めた後、ソファーに畳んで置かれていた毛布が目に入った。途端に罪悪感が俺を襲う。名前ちゃん、昨夜はソファーで寝たんだ。まぁ、過ぎてしまったことをウダウダ言っても仕方ないのだけど、図々しい奴とか思われてたら嫌だな。それにしても、昨夜の記憶がなんとも曖昧だ。一体どういう経緯で名前ちゃんの家に泊まる事になったのだろうか。お言葉に甘え、冷蔵庫からプリンを取り出して食べながら必死に記憶を辿るが、頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。まだ体は全開ではないようだ。念のため熱も計ってみよう。多分微熱程度だろうな。プリンを食べ、薬を飲み、名前ちゃんが残していたメモに俺もメモを残し正くんに電話をかける。今日の仕事は午後からだけど、移しちゃ悪いしお休みさせてもらおう。正くんに連絡すれば、昨日アキラくんに俺の不調の事は聞いていたらしく話は直ぐに終わった。名前ちゃんが何時も玄関前に置いている植木鉢の下にスペアキーを置いているのは知っていたから(勿論危ないと注意したけどその癖は直っていなかった)、タクシーを呼び家に帰ってもう一眠りしよう。





















「名前休憩行かないの?」



「今日は17時ダッシュで帰りたいから。仕事早く終わらせないと」



「ふーん、珍しい。………男?」



「………違いますー」



「……(絶対男だ!!)」




竜太朗さんまだ寝てるかな。冷蔵庫のプリンは食べてくれただろうか。薬もちゃんと飲んでくれたかな。質問してきた同僚は、暫く隣でニタニタした笑みを見せた後仕事に戻った。男と言えば男だけど、そういうんじゃないんだってば。ただ熱出して寝込んでるから心配なんだって。それにしても仕事がはかどらない。苦しそうな竜太朗さんの寝顔がちらつくのも原因のひとつなんだけど、やっぱソファーで寝たのがいけなかった。体が痛い。それに寝不足。だって竜太朗さんがあんな事言うから、心臓が煩くてなかなか寝付けなかったのだ。まさか好き、なんて言われると思わなかった。大好きなんて、あぁ、ヤバいまた心臓が。




「ぷっ」



胸に手を当てて気持ちを落ち着かせていると隣で同僚が吹き出していた。




「さっきから凄い百面相。」



「心臓が痛いんですー」



「いいねー青春だねー」




まるで自分はもう青春なんて縁のないというかのような遠い目をした同僚を一瞥し、何も返さずまた仕事に集中した。頑張った甲斐あってか定時ピッタリに会社を出ることができ、竜太朗さんがいるであろう自分の家に向かった。
玄関前で乱れた前髪を軽く整え(自分の家に入るのに何気にしてんだろ)、朝出る時に閉めた鍵を開ける。カチャリと鍵の回る音がした。




「竜太朗さん……?」



リビングにも寝室にも竜太朗さんの姿はなく、まさかと思いつつも開けたクローゼットにも彼はいなかった。当たり前か。ふとテーブルに置いたメモが目に入った。今朝自分が竜太朗さんに当てて書いたもので、あたしとは違う少し不格好な文字が追加されていた。プリンと薬のお礼と、ベッドを占領してしまったことの謝罪の文だった。追伸で鍵を植木鉢の下に置くのはやめるようにと。あーそっか、だから鍵をかけれたんだ。
なんだか拍子抜け。帰っちゃったんだ。もう熱は引いたのかな。帰ることが出来るくらいだから、きっと昨日よりはマシになったのだろう。なんたって昨夜はフラフラだったから。熱が下がらなければもう少し一緒にいれたのに、なんて思うのは竜太朗さんに対して失礼なんだろうけど考えずにはいられないのはあなたの事が好きだからって今すぐに伝えたいから電話をしてみようか。





















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