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「俺、恋を失うと書いて失恋した」
「あー………まじ?」
「大まじです」
俺に好きでいられると名前ちゃんは困るんだって。凄くショック。もうネガティブ街道まっしぐら。でも落ち込んでなんていられないんだよね。この前アキラくんに指摘された俺の悪い所。失恋したからってその悲しみを仕事に持ち込むわけにはいかない。
「だから正くん慰めてよ」
「なんか意味深な言葉だなーいやだ」
「え!?酷い!!」
「慰める必要ないと思ってるから。まだ恋は失ってないんじゃないの?」
正くん……
「よくそんなクサい台詞真顔で言えるよね…」
「うるせー」
でも、正くんの言う通りだ。ふられたくらいで名前ちゃんの事好きじゃなくなるくらいの気持ちだったら今頃こんな辛い思いなんてしてない。これ以上何をすればいいんだろう。困るとまで言われて、俺、そこまで強い人間じゃないから、結構辛い。やっぱり仕事に影響は出てしまいそうだ。
「えっ!?あの仕事ってモデルだったの!?」
「知らなかったの?もう散々だった…」
今日は祝日。仕事は休みだから友人を家に招いた。自分の代わりに先輩の仕事を手伝ってくれたお礼と言って持ってきてくれたケーキを食べながら話すのは先日の出来事。竜太朗さんはあたしが好きで、あたしも竜太朗さんが好きで、でも仕事に影響しててメンバーさんにまで迷惑がかかってるって考えると、言えなかった。
「じれったい!!あんたたち本当じれったい!!」
「そんな事言われても……」
「好きなら、それで充分じゃん。告白にも、付き合うのにも、それ以上の理由なんかいらないでしょ?名前はそういう言い訳ばかりして、逃げてるみたい」
友人の言うことは、当たってる。やっぱ、客観的に見てくれるからかな。あたし逃げてるんだ。はっきりと竜太朗さんの口から好きだって聞いたわけじゃないし、付き合おうなんてことも言われていない。寧ろ竜太朗さんはあたしの事を忘れたいのかもしれない。
考え出したらキリがない不安があたしを逃げ腰にさせる。
「このままじゃダメだよね……」
「ん?」
「あたし、告白する!」
「おー!?まじ!?って今!?」
さっそく携帯を開いたあたしを止めたのはさっきまで押していた友人で、一体どっちなの。
「今しなきゃ明日には多分怖じ気づいてると思うから」
「なるほど。じゃ、邪魔しちゃ悪いし帰るね。」
気を利かせた友人が部屋を出て行った途端に弱気になる自分。でも、今電話しないでいつするというんだ。無いに等しい勇気を振り絞って発信ボタンを押した。呼び出し音が数回鳴って、それは留守番電話に繋がった。そうだよね、竜太朗さんがいる世界は祝日が休みなんて当たり前じゃないよね。留守番電話にメッセージを残して携帯を閉じた途端震えだしたそれ。画面にはさっき電話をかけた竜太朗さんの名前があって、直ぐに通話ボタンを押す。
『名前ちゃん?ごめんね、さっき電話出れなくて』
「あたしこそすみません。急に電話なんかして……お仕事中ですか?」
『休憩中だから大丈夫だよ』
あ、やっぱお仕事だったんだ。今日もあの先輩と一緒にいるのかな。まただ。嫉妬してばかり。あたしは嫉妬なんて出来る立場じゃないのに。
「竜太朗さん……今日、お仕事何時に終わりますか?」
『あー…どうだろ。何かあった?』
「あの、お話があって……」
携帯を閉じて頭を抱える。俺、失恋したんだよ。何期待なんかしてんの。頭では分かっていても胸は高鳴っていて。頭がぼーっとする。あぁ、恋の病も末期に突入かー。
「お前大丈夫か?」
「俺末期なの」
「体温たけーし、目充血してんじゃん!熱あるんじゃねーの?」
熱。あぁ、道理でクラクラすると思った。
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