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『凄く嬉しいです。あたし、竜太朗さんが好きだから……って何故言わなかった!?』
「言えるわけないじゃん!!竜太朗さんにとっては"もしもの話"なんだよ?」
あの質問には結局答えず、竜太朗さんは帰ってしまった。まるで見計らったようにタイミング良く鳴り出した着信の相手は唯一竜太朗さんのことを知っている友人からで、声に元気がないと先ほどの事を洗いざらい吐かされた。
『だいたいさー、もしもって聞いてくる時点で本当の事じゃん。名前だって薄々気づいてんじゃないの?』
確かに。あんな事、"もしも"でも聞いてくる理由がない。もしかして、なんて考えた事もあった。あたしと同じ気持ちなんじゃないかって。でも、もしあの質問に友人が言ったように答えていて、竜太朗さんにとって本当にもしもの話だったら………悲しすぎる。言えるわけないじゃん、あたしはそんなに積極的な性格ではないし、やっぱり自信もない。告白すらしたことないのにさ。
『まぁ、名前のしたいようにすればいいさ。それより!』
「本当にあの子に任せて大丈夫だったの?」
「まぁ他に宛てもないし、仕方ないよ」
雑誌の撮影で女性との絡みを撮ることに。絡みっていってもイヤらしい感じではなく、ただ一緒に撮るだけ。手を繋いだりとかはあるんだけどね。そのモデルさんが前日になりキャンセルしてきた。少し我が儘って前から聞いていたけど、まさかドタキャンされるとは。撮影場所も予約していて急に変更は出来ない為代役のモデルさんを探していたがそう簡単に見つからず。そんな時名乗りをあげたのが新人スタッフの彼女だった。
「連れて来ましたー」
最初は彼女が自らモデルになると言ってきたのだがイメージが余りにもかけ離れていた為即却下された。
「あら、イメージにぴったりじゃない!」
「ですよねー!後輩の友達なんです」
「ってことは、ド素人?」
代役のモデルさんが到着したようだが俺は今メイク中で顔を動かせない。鏡越しに見ようとするが、メイクさんの体が邪魔で見えなかった。
「ちょっと待ってください!ただのお手伝いなんですよね!?」
「そ!モデルのお手伝いして欲しいの。さ、準備準備」
聞いてないです!なんていう焦った声が聞こえた。え、もしかして騙して連れてきちゃったパターン?困るよーもう。しかしなんだか聞いたことのある声だったな。聞いたことあるってゆうか、一番聞きたい声ってゆうか。
「有村さん、代わりの子連れて来ましたよ!今別室で着替えてます」
褒めてくださいとでも言うかのように尻尾を振りながら俺の元へとやってきた犬のような彼女。本当に同意の上で連れて来たのだろうか。代役の子が別室から戻ってきたら確認しよう。いやいやカメラに写すわけにもいかないからね。
「次はお化粧ね!」
「あの、あたしモデルなんて……」
やけにキラキラした表情のスタッフに連れられて部屋に入ってきた、黒いワンピースを着た代役のモデルさんはよく知った人だった。
「名前ちゃん……」
「あ、……、」
彼女も俺の存在に気づき、吃驚しすぎて言葉が出ないみたいだ。後輩の友達だったっけ?うん、世界はかなり狭いみたいだ。こんな偶然ってあり?
「知り合いなんですかぁ?」
間に割り込んできた例のスタッフを見て、昨日の会話を思い出した。俺が名前ちゃんの名前を出すと、それを独り言のように呟いていて。大丈夫だとは思うけど、名前ちゃんに変な事されても困るし。
「別に大した知り合いじゃないよ。ちょっと顔見知りなだけ」
「ぇ、」
「それより、今日の仕事のこときちんと説明して同意を得た上で連れて来たよね?」
名前ちゃんの傷ついたような顔が横目に映った。俺の真正面にいるスタッフは苦笑いで誤魔化している。やっぱり、何も言わず連れて来たんだ。
「ごめんね名前ちゃん…帰って大丈夫だよ?」
「えー!?せっかく連れて来たのに、」
「せっかく騙して連れて来たのにって?」
「うっ、…ごめんなさい」
余りにも自分勝手なスタッフの反論に少し口調を強めて言い返した。口では反省を述べていたがその顔はまだ不服そうだ。未だ俺らの傍に佇む名前ちゃんに目を向ければ黒いワンピースの裾を握りしめている手が目に入る。あ、もしかして怒ってるのかな。謝って帰ってもいいことを伝えようとすればそれを遮るように彼女は言った。
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