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俺の隣に座った彼女を横目で見下ろした。年は名前ちゃんと同じくらいかな。でも喋り方や服装などを見れば名前ちゃんの方が年上に見える。こういうだらしない子はあまり好きじゃない。昔は良かったんだけどな。俺女性のタイプ変わったのかも。
「さっきの、中山さんとの会話聞いちゃったんですけど…有村さんって好きな人とかいるんですか?」
ああもう、バカっぽい見た目してんのに何でこういった事には鋭いかなぁ。でも、ここではっきりと好きな子がいると言えば、彼女も諦めてくれるだろう。
「うん。いるよ。それでアキラ君に怒られちゃった。俺ね、その子の事凄く好きなんだよね。テンション変わりすぎちゃうくらい」
軽く笑って彼女を見ればあからさまにムスっとした表情を作る。はぁ、面倒くさい。
「有村さん、その女に遊ばれてるんじゃないですか?」
「は?」
「だって、有村さんのテンションがそんなコロコロ変わるってことは、その女が思わせぶりなことしたり突き放したりしてるからですよね?好き嫌いはっきりしない所見ると、ただの遊びだと思います。」
「名前ちゃんはそんな子じゃないよ」
「名前、っていうんですね、その女…」
独り言のように名前ちゃんの名前を呟いた彼女に何も言わず席を立った。
名前ちゃんはそんな子じゃない。そんな子じゃ、ないと思う。最悪、俺、疑ってる。好きな子信用出来ないなんて最低だ。
確かめたい。名前ちゃんの気持ち。だって分からないんだもん。最初から、分からないことだらけだ。どうして俺との関係を持ったのかとか、それを止めた時の泣きそうな顔の理由とか、他の男と仲良くしてたかと思えば急に連絡くれたり。ただ遊ばれてるだけ、そう言った彼女の考えはもしかしたら当たっているのかもしれない。確かめたい。その一心で携帯を開いた。
「ごめんね、仕事こんな長引くなんて思ってなくて」
「大丈夫ですよ。大変ですねお仕事、お疲れ様です」
名前ちゃんの笑顔に、今日1日抱いていた疑いが消えていくのが分かった。名前ちゃんは、そんな子じゃないよ。分かっていたはずなのに、どうして疑っちゃったんだろう。温かいコーヒーが入ったカップが俺の前に静かに置かれた。向かいに座った名前ちゃんは、俺を見て心配そうな表情になる。
「どうしたんですか?竜太朗さん、疲れてます?」
「そんなんじゃないよ。ただ自己嫌悪」
ますます心配そうに俺を見つめる彼女にいたたまれなくなり別の話題を探した。
が、見つからない。
「それは、そんなに自分を責める程の事なんですか?」
「ん?」
「竜太朗さんが思ってる程、相手は気にしてないかもしれないし、寧ろそこまで落ち込んでる竜太朗さんを見て、申し訳ないと思ってるかも…」
一生懸命言葉を探して俺に伝えてくれた名前ちゃん。そうだよね、名前ちゃんだったら、きっと俺以上に自分を責めちゃいそう。そういう子だって、ちゃんと分かってたはずなんだけどな。不安、だからなのかも。
「ごめんなさい、何も知らないくせにこんなこと…」
「名前ちゃんにしか分からないよ」
「へ?」
名前ちゃんの気持ちは名前ちゃんにしか分からないから、だから俺は不安で、今ここにいる。
「もしも、ね?……俺が名前ちゃんを好きだって言ったら、どうする?」
まばたきすらせずに固まってしまった名前ちゃんから視線を外した。何もしもの話なんかしてんだろ俺。もしもなんかじゃなく本当のことなのに。
「どうしてそんな事聞くんですか?」
「知りたい、から…」
「もしもの話なのに…?」
ごめんね、もしもなんかじゃないよ。本当に名前ちゃんが好きなんだ。なんて言う勇気、俺にはなくてただ黙っていた。
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