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「あ、えと…あたしはこれで」
連れも一緒に飲もうと言った長谷川さんの誘いをやんわりと断り、結局一言も喋らなかった竜太朗さんの隣を立った。
「そう?じゃあまた今度ね」
「ちょっと待って」
やっと喋ってくれたと思えば、竜太朗さんはあたしに続き席を立ち、話があると言って手を引き少し離れた場所へと移動した。し、心臓が飛び出そう。話ってなんだろう。
「ずっと、聞きたかったんだけどね…」
「どうしたの?」
竜太朗さんに掴まれた手と反対の腕を少し強めに引かれた。振り向けば今日一緒に食事に来ていた彼がいて、吃驚し過ぎて言葉が出ない。
「なかなか戻って来ないから心配した」
「ごめんなさい」
「……知り合い?」
竜太朗さんを一目見て少しキツい口調で尋ねてきた彼に頷く。なんかこれって二股をかけていてそれがバレてしまった人の気分。気まずい空気が流れて、それに竜太朗さんも耐えられなくなったのか「じゃあ…」とだけ言ってあたしの手を離した。あまりに呆気なくて、少し寂しい。離して欲しいのは、そっちの手じゃないのに。
「名前ちゃんはあの人が好きなの?」
帰り道、何の前触れもなくそんな事を聞かれつい立ち止まった。ここで嘘をついても何にもならないし、そう思い肯定すれば彼は「そっか」と一言だけ言った。
「じゃあもう連絡しない方がいいね」
はい。なんて言えるはずもなく黙っていると彼は続けた。
「俺まだ諦めがつく場所にいるからさ。名前ちゃんのこと、これ以上好きになる前にもう会うのやめる」
「……ごめんなさい」
「謝んないでよー。俺振られたみたいじゃん」
笑顔で言う彼に申し訳なさを感じた。竜太朗さんが好き、わかりきっている自分の気持ちを誤魔化して他の人に頼って、結局傷つけるなんて。もう、こんな事絶対しない。良いじゃん、竜太朗さんのことが好きで。何も悪くないよ。叶わなくっても、それで良いよ。
「俺、帰る」
「は?竜ちゃん?」
食べかけの料理や飲み物は勿体無いけど誰かと一緒にいる気分ではなくなった。当たる方向が違うけど、名前ちゃんを連れて来た正くんに苛立ちさえ感じている。こんな気持ちのまま、メンバーと食事を続けても雰囲気悪くするだけだし、俺なりに考えた結果だった。
財布から適当にお金を出してテーブルに置き、また明日と言って店を出た。正くんが後ろをついて来る気配があったけど無視して歩き続ける。
「竜ちゃんさー、苗字さんと何かあった?」
「………」
「最近会ってないみたいだし、今日だって何か微妙な雰囲気だったし…」
うるさいな。正くんには関係ないじゃん。何も知らないくせに。今日だって勝手に連れて来て、俺、あんな場面に会っちゃったし。全部、正くんの所為ではないんだけど。俺が名前ちゃんの事、好きって知ってるから連れてきてくれただけで、俺も名前ちゃんの顔見れて嬉しかったから。
「なんでもないから。じゃ、また明日ね」
まだ納得のいかない表情の正くんに背を向けた。
どうして離してしまったんだろう。あの時、あの店で名前ちゃんの手を離さずにずっと握っていたら、今はどんな風になっていたんだろう。反対側の腕を掴んだあの男と俺、どっちを選んでくれたのかな。自分で離しておきながら凄く後悔してる。
あの男が前電話でお兄さんが言ってた男だよね。そのことがずっと俺の中で渦巻いてて、気になってしょうがなかった。だから名前ちゃんに直接聞こうと一緒に席を立ったんだけど、本人に聞く前に見せつけられてしまった。名前ちゃんは進んでるんだ。俺は、あの時から動けないままで、周りの変化も受け入れられない。俺ってこんなに不器用だったっけ?不器用ってゆうか、あれだ。結局俺はただの臆病者なんだ。
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