長編 | ナノ
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名前ちゃんの家の前を通ったからといって特にアクションもなく、途中コンビニに寄ってメンバーに頼まれたタバコや飲み物を早くも買って帰ることにした。
クロには店の前で少し待っていてもらうことにし、自動ドアをくぐる。やる気のない大学生らしき店員さんの声を耳に入れながら無意識に足は本棚に向かう。あ、ジャ○プ出てる。えーっ有村竜太朗ってジャ○プ読むの!?なんて思ったそこのキミ。俺だって人間であり男であるんです。ジャ○プ大好物なんです。しかしガラス張りの窓の外に闇夜に溶け込んだクロの姿を見つければ、名残惜しいがマンガを棚に戻した。待たせちゃ悪いしね。ちゃちゃっと買い物をして帰ろうではないか。
あ、プリンも買って帰ろう。







「キミほんとクロにそっくりだねー」





ありがとうございましたー、来るとき同様やる気なさ気な店員さんの声を背中で聞きながら外に出れば懐かしい声が聞こえた。グルグルと喉を鳴らし喜ぶクロと、クロを撫でる懐かしいその姿に思わず買い物袋を落としそうになる。お店から出てきた俺に気づくことなくクロを撫で続ける彼女は終始クロに話しかけている。




「ノラなの?うちはペット禁止なんだー。」



「俺の子だよ」





























「俺の子だよ」




しゃがんで猫を撫でていると頭上から降ってきた声に顔を上げた。
懐かしいその顔に何も言えなくて黙っていると、彼はあたしの隣にしゃがみこんでクロに似た猫を撫でる。ううん、この子は正真正銘のクロだ。そして、彼は竜太朗さんだ。あたしが撫でていた時よりも気持ちよさそうな表情を見せるクロ。撫でているのは竜太朗さんだ。





「なんか、久しぶりだね」



「え、あ、そ、そうですね……」




思わず耳に手を添えた。竜太朗さんの、声だ。鼓膜がどうにかなってしまいそうなくらい、大好きな竜太朗さんの声だ。
確かめるように横目で盗み見たその人はやっぱり竜太朗さんで、目を隠す長めの前髪も、綺麗な形の鼻も、キスしたくなる唇も。ほんとにほんとに竜太朗さんだ。





「買い物?」



「はい、竜太朗さんもですか?」



「うん。散歩がてら買い出し」




掲げた大きめの買い物袋には結構な量の飲み物や食べ物が入っているみたいだった。誰かと一緒にいるのかな。
てゆーか、今更だけど自分の格好が恥ずかしい。化粧は落としていないけど、髪は一つに纏めて適当に結ってるだけだし、服は部屋着であるよれ気味のTシャツにショートパンツ。竜太朗さんは、いつも通り素敵。





「あ、じゃああたしはこれで…」



「あ、送る」



「へ?」





コンビニには無性に食べたくなったアイスを買いに来たのだが、なんだか胸や頭がいっぱいで食べる気がしなくなった。折角来たお店に入ることもなく帰ろうとするあたしを竜太朗さんは送ってくれようとしている。なんて紳士なんだ。





「行くよクロ」




先に歩き出した竜太朗さんとクロを追いかけて、やんわりと断ればまた送ると一言。そういえば、こんな風に断ってそれを受け入れてもらったことってないかも。うん、竜太朗さんは絶対送ってくれたから。あ、一度だけ一人で帰ったことがあったっけ。あたしが飛び出すように竜太朗さんの家を出たあの日。なんだか凄く昔の出来事みたい。だけど鮮明に覚えてる。
約二週間ぶり、意外にも普通に接してくれた竜太朗さん。あたし、まだ戸惑ってるのに。こんな普通に話していいのかな。送ってもらっちゃっていいの?本当、よく分かんない。竜太朗さんが何を考えてるのか全く分かんないよ。あんな風に離れて行って、今更優しくするとか、狡い。それが竜太朗さんの性格だったら、尚更たち悪い。やっぱ、嫌いになんてなれないなぁ。寧ろ、好きは増すばかりです、と、斜め前を歩く背中に訴えても伝わらないのだけど。
二週間ぶりにその姿を目に映したからなのか、その声を耳が拾ったからなのか、よく分からないけど今更喉の奥が痛くなって視界がぼやけてきた。気づかれないように、ただ静かに彼の後ろをゆっくり歩いた。





















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