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「お兄ちゃんのぶぁかーっ」
「うおっ!?」
彼女とのグアム旅行を充分に楽しみいい感じに肌も焼け、帰国後、借りていた旅行バッグを返しに妹の部屋に行けばいきなり泣きつかれた。鼻水つけんなよ、これ向こうで買ったばっかのシャツなんだぞ。
「お兄ちゃんがっ、離れろって、ひっく…竜たろ、さんに……うぅー」
理解に苦しむ名前の発言だったが何となく言いたい事を理解した俺は泣きじゃくる妹の頭をポンポンと撫でてやる。あーなんか昔を思い出すなぁ。あの頃の名前は可愛かった。うん。
玄関でってのもあれなんでとりあえず名前の手を引き部屋の奥まで連れて行く。ソファーに座らせ自分も横に座り名前を見下ろしてちゃんと顔を見てみれば本当に泣いてる。いや、だって名前の泣き顔なんて小学校以来だし、正直吃驚。
「お前もしかして、有村さんのことが好きなの?」
「………好きだもん。悪い!?」
「悪くないって、キレんなよ」
「だいたいお兄ちゃんが竜太朗さんにあんな事言うから離れてっちゃったんだもん!!酷いよ、何も知らないくせに!!」
「何も知らないってか、分かってないのはお前だろ」
いくら好きだからって、体だけの関係とか何やってんだよ。男は好きでもない女と普通にそういう事ができる奴も多いんだ。有村さんは違ったからよかったけど、もしそうじゃなかったら今頃捨てられてたかもしれないんだぞ。
「……もういい、」
「いいじゃないだろ?何があった?」
なるべく優しい声で話しかけてみる。いじけた顔をしていた名前はぽつりぽつりと話し始めた。
「竜太朗さんに、こんな関係やめたいって、…お兄ちゃんがっ、あの夜にあんな事言ったから!」
「…聞いてたのか」
落ち着いていたかと思えばまた涙を流し始めた妹にどう対応すればいいのやら。俺の所為だよなー。ん?俺の所為か?ってゆーかだな、あんな関係を何時までも続けるなんてダメに決まってるんだよ。名前にとっても有村さんにとっても。確かに俺はあの夜今以上の関係になるつもりがないなら離れた方がいいと言ったけど、有村さんがそう思って離れたとは考えにくい。きっと有村さんなりの考えがあるのだろう。
「どちらにせよあんな関係は早めに終わらせて正解なんだよ」
「離れるくらいならあたしはあの関係のままが良かった」
「はぁ?お前さー」
「でも、竜太朗さんには重かったのかな、あたしみたいな女」
自分の妹ながらちょっと呆れた。だってこいつまじで無自覚。バカすぎだろ。有村さんの気持ち全く気づいてないし、しかも間違った方にばかり妄想が進んでる。
「やっぱ、恋人になりたいとか思ったら、めいわぐなのがなぁ?」
「!?泣くなって!大丈夫だから!有村さんはそんな人じゃねーだろ!?」
「そうだよ、優しい人だもん。だから今まで何も言わないで傍に居てくれたのかも。でも、お兄ちゃんが離れた方がいいって言ったから…」
あーはいはい。俺の所為なわけね。いいよそれで。俺の所為にして名前の気が済むんであれば。
そういえばグアムで買ってきたお土産があったんだ。これで少しでも元気を出してくれたらと名前に渡せば素直に受け取ってくれた。
「……ほんとは言うほどお兄ちゃんの所為だとは思ってないよ」
「は?お土産やったからって調子良い奴だなーお前」
「そんなんじゃない。遅かれ早かれ、こうなってたとは思うし、お兄ちゃんの言ってること、正しいし…」
「まぁ、あれだ。正解なんて分からないし、俺も自分の考え押し付けたし、ごめん」
「あたしも八つ当たりしてごめん……」
あら、珍しく素直じゃん。複雑だなーこいつも。今まで男の気配がない寂しい妹だと思っていたけど、俺より濃い異性関係があったとは。リアル昼ドラかよ。
「お兄ちゃんのさ、知り合いに、…良い人いない?」
ソファーの上で膝を抱えながらそう言った妹に俺は暫くフリーズしてしまった。
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