長編 | ナノ
13
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「この子に服貸してくれる?」



「わ!どうしたの!?」





着いたのは古い建物で、なんか如何にも出そうな感じ。ここで撮影するんだー。見慣れない機材なんかが沢山詰め込まれていてコードなどが床に散乱しててつまづきそう。
スタイリストさんと思われる女性はあたしの格好を見るなり大声を張り上げていた。恥ずかしい。綺麗でお洒落な人だから余計に。




「とりあえず、…これでいい?」


「はい、どれでも大丈夫です。お手数かけてすみません…」




受け取ったのは黒いシャツだった。うわ、デカい。やっぱ男物だからかな。でもTシャツとかじゃなくて良かったかも。襟広いと困るから。別室に案内され汚れた服から借りたシャツに着替えた。これ、高いんじゃないかなー。洗濯とかどうしよう。やっぱクリーニング出さなきゃだよね。




「あ、サイズ大丈夫だった?」


「はい。ありがとうございます。あ、申し遅れました、苗字といいます。」


「あ、どうも長谷川です。竜太朗がいつもお世話になってます。」




着替えて皆さんが居る部屋に戻ったあたしに話しかけてきたのは長谷川さんだった。皆さん礼儀正しくて優しいなぁ。竜太朗さんはというと先ほどの綺麗なスタイリストさんと洋服片手にお話をしていた。仲、良いなぁ。
自分の中に嫌な感情が湧き出てきた為、仲良く話す二人から視線を逸らすと、ずっとあたしを見ていたのか長谷川さんと目が合った。




「俺さ、苗字さんのお兄さんに会ったことあるんだよね」


「え゙!?」



また兄ですかー!?竜太朗さんにも余計なこと言ってるし、あたしより先に長谷川さんに会ってるし、あなた一体何者よ。あたしの反応が面白かったのか、長谷川さんはタバコを片手にケラケラ笑っている。



「竜ちゃんがさー絡んでるのを隣で見てただけなんだけどね、」


「それ本当ですか!?」









いつの間にか着替えた名前ちゃんが戻ってきていて、正くんにとられた。俺が一番に話しかけたかったのに。ブカブカの黒いシャツ、抱きしめたいなぁ。一体何話してるんだろう。楽しそうだな。正くんには名前ちゃんが例の俺の好きな人っていうのは言ってないけど、多分気づいてると思う。気づいててそんな仲良くするって酷いと思いまーす。俺ヤキモキ妬いちゃうよ。もう妬いてるけど。




「あ、じゃああたしはこれで……ありがとうございました。竜太朗さんにも挨拶してきますね」


どっきーん。俺のとこ来る。聞いてないフリをして缶コーヒーを一口のんだ。結果、気管に入りむせた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「げほっ、だいじょぶ、」



格好悪ーい。
名前ちゃんの後ろで正くんがくちぱくしていた。後でほんとに殴るからね。



「お洋服、お借りします。クリーニングに出して返しますね。また、連絡して良いですか?」


「!!うん、連絡して。送る、」
「お前仕事だろボケ!」



うわーん。送るくらい良いじゃん。第一名前ちゃんをここからひとりで帰す気!?



「ここ××ですよね?あっち行くと××駅でしょ?だったらひとりで帰れます。」



「あ、そーなんだー…」


「ご迷惑おかけしてすみません。お仕事頑張ってください。」




最後にメンバーとスタッフ皆に華をまき散らしながら挨拶をした名前ちゃんに男性陣は俄然やる気が出たに違いない。俺としては素直に喜べないけど。でも連絡くれるって言ってたし、頑張っちゃおうかな。














「竜ちゃんの好きな子良い子だね」


「やっぱ気づいてた」




撮影の合間に正くんがそんなこと言ってきた。



「好きになっちゃダメだよ」


「俺今日会ったばかりの子好きになる程惚れっぽくありませんから。でもさー…」




さっきまでおどけていたと思えば急に真剣な表情作って、声のトーンも落として、なんか怖いんですけど。



「あれだよね?竜ちゃん、苗字さんとさー、その、そういう関係でしょ?」


「あー…うん。そういう関係。」


「そんな子には見えなかったけどなー。男と体だけの関係作っちゃうようには…」


「名前ちゃんがそんな子だったら好きになってないよ」


「でも竜ちゃんとはそういう関係でしょ?そんな子なんじゃないの?人は見た目じゃわからないねー」




なんなの。さっきから名前ちゃんのこと悪く言ってさ、正くんなんて今日会ったばかりじゃん。名前ちゃんの何を知ってるんだ。




「だからさー、苗字さんが」
「うるさい!!正くんには関係ないじゃん!!」




柄にもなく声を張り上げた。気まずい空気が俺たちだけじゃなくスタッフをも包む。こんなにもイライラするのは、正くんに言われた事は全て核心をついているから。でも、名前ちゃんを否定されるのは許せなかった。



「分かった。もう口出さない。」



竜ちゃんが怒った。珍しい。俺、怒られるようなこと言ったっけ?
゙苗字さんがそんな子じゃないってことは、竜ちゃんのことが好きだからそういう関係になってるんじゃない?゙
言いかけたけど、やめた。やっぱりそれは竜ちゃん自身で解決しないとね。
とりあえず未だ拗ねている竜ちゃんの機嫌を直す方法をスタッフと考えようか。





















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