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真っ白なシーツに押し倒され、何も身にまとっていない状態のあたしの上には竜太朗さんがいて、鼓動が早くなる。
「名前ちゃん……」
竜太朗さんの声が、耳の奥、鼓膜で振動して脳に届いた。麻痺するみたい。何度もついばむようなキスをされ、クラクラする。
「挿れて、いい?」
まるで子猫のような眼差しで言われ、ぎゅーっと心臓が締め付けられた。一回小さく頷いて来るであろう快感を待った。
「…………………ゆめ?」
目を開ければまだ薄暗い室内で見慣れた天井。心臓だけは早打ちしてる。
うわ、あんな夢見ちゃうなんて、恥ずかしい。しかもイイトコロで終わっちゃうしさ、って何考えてんのあたし!!
「もしかして欲求不満!?」
女なのに欲求不満ってどうなの?でも、最近エッチしてない。あの日、途中で止めちゃって、竜太朗さんに嫌われたと思ったけど、その後も優しくて、昨日せっかくのお仕事お休みなのに会社まで会いにきてくれたし。
「よく、分かんないよ…」
竜太朗さんが何を考えてるのか。
あたしの事どう思ってるんですか?何番目に仲良い女の子?一体どういう関係なの?もしあたしが好きって言ったら、どうしますか?
疑問も不安もたくさんあって、それでもあたしは竜太朗さんから離れたくないです。
「もう告白しちゃえば?」
「えぇ!?」
高校時代からの友人と久々に会い買い物をし、休憩がてら昼食をとっていた時だった。この友人は今でも一番仲が良く、竜太朗さんとの関係も唯一知っている人物だ。お揃いでしおりを持っているのもこの友人。
「告白、とか、無理だよー……もし振られたらもう傍に居れないし、」
「そんな事ばっか言ってたら一生この関係のままじゃん。もたもたしてると有村さんに彼女出来たりするかもよ?」
彼女!?竜太朗さんに彼女…。そうだよね、あんな素敵な男性を周りの女の人達が放っておくわけがないもん。同じ職場のスタイリストさんやメイクさんとか、竜太朗さんの好みとかちゃんと分かってそうだし、同業のアーティストさんとか、同じ仕事だから価値観とか似てるんじゃないかな。うわ、どうしよう。今更焦ってきた。
「でも、告白は、無理。絶対。」
怖い。もともとは住む世界が違う人。告白して断られたら本当に会えなくなる。もし、なんて考えていたら先に進めないのは分かってるけど、考えずにはいられない小心者の自分が嫌になる。
「まぁ、名前が言うなら強制しないけど……結構脈ありだと思うんだけどな」
「ないよ。脈なんて…」
これっぽっちも。
好きならセフレにする?しないよね。あたしだって、こんな関係になりたくてなったんじゃない。でも、今この関係をやめたいかって聞かれたら、微妙。この関係が切れたら、竜太朗さんと切れるから。もう竜太朗さんの中では切れてるかもしれないけど。
「よし!次は化粧品!行くよ名前!」
「もうー?もう少し休もうよー」
「あんた幾つよ!?若いんだからシャキッとしなさい!」
強引な友人に急かされ渋々席を立ち、既に両手いっぱいの荷物を持った。重っ…。そしてお店入り口にあるお会計に歩き出した時、事件は起きた。
「きゃっ!?」
「うあー!?すんません!!」
大柄な男性とぶつかり、標準より少し小さめサイズのあたしは見事に1メートル程飛ばされ倒され挙げ句の果てに男性が持っていたジュース(匂いからして多分コーラとオレンジと何か)がまんべんなく体にかかった。
「名前大丈夫!?」
「大丈夫っすか!?」
「だ、大丈夫……」
としか言えない。この服お気に入りだったのに、しかも今日買った服にまでジュースかかっちゃってるし、でも言えない。だってこの男性、ぶっちゃけ怖い。金髪だし、長髪だし、デカいし。
「うわ、ジュース頼んだだけなのに女の子襲ってる!」
「あ、ほんとだ。大丈夫ですかー?」
聞いたことのある、寧ろ聞き慣れた声に振り向けばそこには彼がいて、これが不運だったのか幸運だったのか一瞬で分からなくなってしまった。
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