長編 | ナノ
09
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竜太朗さんにお礼の電話をしなきゃと思いはしていたがなかなか出来ず、行かないでと言っていた会社説明会の日を迎えた。
この日の準備やら打ち合わせやらでここ数日は目が回るような忙しさだったのだ。今日が終われば仕事は一段落する。そしたら連絡をしよう。
メールの方が良いかもとか、寧ろ連絡しない方が良いのかもとか、いろいろ考えたが、わざわざ律儀に届けてくれたことを思うと此方もしっかりお礼はしなきゃいけない気がするから。ポスト投函だったけど、お兄ちゃんがいなかったら多分直接手渡してくれたと思う。

今時こんな親切な人いないよなー。きっとみんなに優しいんだろうな。だからあんな厳しそうな世界でも成功してるのだろう。あたしは、やりたいこともなくて普通に大学出て就職して、彼氏もいないし、やっぱり竜太朗さんとはどんなに背伸びしても釣り合いそうにないや。




「あ、苗字さん。手が空いてるなら会社の外に立って参加者誘導してくれない?皆入りづらいみたいなのよ」


「分かりました」



どうりで集まりが悪いと思った。エレベーターで一階まで降り、ガラス張りのロビーを歩いていると外に見慣れた黒髪が横目に映る。あのサングラスにゆるーい服装、なんだか竜太朗さんみたい。
ん?竜太朗さんみたい…?みたいってゆうか、竜太朗さんご本人にしか見えないあたしの目はとうとうイカれてしまったのだろうか。




「あ、やっぱり名前ちゃんだ」


「竜太朗さん!?え、何して…?」


「今日オフだから来ちゃった」



きゅん。
片手で髪を触りながらはにかむ竜太朗さんに胸キュン。可愛さと格好良さの両方を持ち合わせているなこの人。




「あたし、竜太朗さんに仕事先言ってましたっけ?」


「んーん。この人に聞いた」


「お、おはようございます!」


「おはようございます、あ、今日の説明会に参加される方ですよね?正面から入って右にあるエレベーターで7階まで行ってもらえますか?」


「はい!あ、ありがとうございます。」




今日の朝アルバイトくんをとっつかまえて無理矢理ついてきた。お仕事モードの名前ちゃんも素敵、なんて見つめていたらいつの間にかアルバイトくんの顔が赤に染まっていてジェラシー。そんな顔で名前ちゃんを見ないで!という意味を込め、名前ちゃんにお辞儀をして会社へ歩き始めたアルバイトくんに膝かっくんしてやった。こっちが吃驚するくらい綺麗に転けた。



「なにするんですか有村さん!?」


「あ、今のはほんとにごめん。あんな綺麗に転けるとは……」




スーツについた汚れを叩きながら渋々社内に入って行った鈍臭いアルバイトくん。それを見計らったように吹き出した名前ちゃん。



「あはは、もう!何してるんですか竜太朗さん!」


「膝かっくん」


「それは分かりますってー!あは、可笑しい」



本人には笑ってたこと内緒ですよ。なんて人差し指立てて言われたら、永久にお口にチャックしちゃうよ俺。そしたら仕事出来なくなっちゃって、一般人になった俺なんか名前ちゃんは相手にしてくれなくなっちゃうんだろうな。
名前ちゃんは俺達のファンだったわけじゃない。初めて会った時俺の事大学生かと思ってたらしいし、まさかそこそこ人気のあるバンドのボーカルとは、みたいな。

だから、今までのような、俺がPlastic Treeの有村竜太朗だからって理由で寄って来る女の子とは違くて。ちゃんと俺を見て傍に居てくれるのかなー、なんて自惚れてみたり。


でも結局は名前ちゃんの気持ちなんて分からないからそれは俺の予想であり理想で、自信もないからズルズル今の関係が続いてて、この間はキスすら拒否されちゃったし。俺キス恐怖症になっちゃったかも。




横目で見た彼女の唇はまだ微かに笑みを浮かべていて、その綺麗な顔を風に揺らされた髪が悪戯に隠す。少し鬱陶し気に髪を耳にかけるその仕草が女の子だなぁ、なんて、俺って観察しすぎ?




名前ちゃんってゆう人間の全てが俺のモノだったらいいのにって、伸ばした手は揺れる髪の毛先に触れただけだった。





















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