短編 | ナノ
複雑に見えて実は単純明快だったりする
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隣のクラスの有村竜太朗くん。
あたしのクラスの可愛い子ちゃん。
二人は恋人同士で、それはもう誰もが羨むようなお似合いなふたりだ。
そんな公認の彼女がいる有村くんに恋をしても無駄だと、分かっていたのに恋をしてしまったバカひとり。




「ラブって理論的じゃなくて感情的なんだもん」



どんなに頭で理解していてもそこに感情は直結していない。脳と心はまったく無関係なものらしい。頭で考えたことを心は理解できないし、心が感じたことを頭は理解できないのだ。



「で、結局名前はどうしたいの?」


「それは脳で考えたこと?それとも心で感じてることを聞いてるの?」


「あんたねー……」


「頭では、やだよ。有村くんなんか好きになりたくなかった。でも、心では欲しくて欲しくて堪らないの」



「なにが欲しいの?」


「有村くん。……………ってえぇ!?」


「苗字さんは俺が欲しいの?へぇー、そうなんだ」




ごく自然に会話に入ってきたから普通に答えちゃったけどまさかの本人登場。不本意ながら告白したも同然だ。あぁ、教室のど真ん中で告白し教室のど真ん中で振られるであろうあたしに気を使ってかさっきまで話していた友人は黙って教室を出て行ってしまった。この薄情者。後で覚えとけよ。



「今日は彼女さんお休みですよ」


「知ってる。メール来たから。それより、俺のこと欲し、「くないですあれは嘘です」


「ふーん。……今日俺の元恋人が休んだ理由知りたい?」


「体調不良でしょう?担任が言ってましたってか今何て言った!?」


「"知りたい?"」

「もっと前!」

「"ふーん。"」

「戻しすぎ!!」

「"元恋人"」



元?もしかして、別れたの?あんなに仲良さげだったのに。毎日、休み時間毎にこの教室に来ては彼女とお喋りしてたのにどうしてそんな急に。



「俺と別れることがショックだったみたい」


「振っちゃったんですか?」


「うん。」


「仲良かったのに…」


「彼女とのお喋りを口実に休み時間の度にこのクラスに来て別の女の子見たりしてたよ俺」



彼女との破局により少しだけ浮いてきた有村くんに対する気持ちが下降した。もう、他に好きな子がいるんだ。しかもまたこのクラス。もういい加減諦めろと脳が激しく心に訴えている。今、ここではっきりと振られたら諦めもつくかもしれない。突き放すなら、最高に最低な言葉でお願いしたい。曖昧な言葉は決意を鈍らせる事しかしないから。




「だから昨日別れた。今日からその子にアタックしたくてね」


「そうですか頑張ってくださいね」


「苗字さんがそう言うなら遠慮なく。」



額に何かが触れた。一瞬のことでなにがなんだか分からないけど、額に柔らかい唇が触れた事だけは理解できた。



「ぷ、その顔可愛い」


「可愛くて何故笑う!?キモいの間違いですよね!?」


「んーん、可愛い。苗字さんは俺にとって一番可愛い」


「ぎゃ、ギャグっすか!?全然笑えないです!!」


「笑わなくていいからちゃんと聞いて」




そう言われれば聞かないわけにはいかない。目を見れなくて俯き加減になるあたしの頭を撫でて有村くんは言った。





「好き。明日から苗字さんに会いにこの教室に来ていい?」


「あたしに会うのを口実に他の女の子を「有り得ないからね」




だって自分でも信じられないくらい苗字さんが大好きだから

なんて真面目な顔して言う有村くんにあたしは顔から火を吹きそうな勢いだった。



「で、お返事は?」


「もう!聞かなくても分かるでしょ!?」


「分かるけど聞きたいのー」


「っ…あたしは有村くんが欲しくて堪らないの!」


「知ってる。さっき言ってたもんね」





有村くんに恋したくないなんて思っていた脳は、自分を傷つけないための予防線みたいなものであって、結局は脳も心も彼を求めてやまないのだ。



新たな恋人誕生の一部始終を見ていたクラスメート達に冷やかされるのは当分の間続きそうである。











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