短編 | ナノ
僕の影法師
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校舎端に設置してある非常階段を利用することは殆どなく、卒業するまで行ったことがない人の方が多いだろう。そんな場所だから、俺の特等席にはぴったりだった。屋根はついていない為、雨が降っているとき意外はたいていそこにいる。何をするわけでもなく流れる雲を眺めたり、雀の数を数えたり。太陽の光を受けながらウトウトしていた時、俺の顔に影ができた。目を開けたとき彼女に出会った。
初めて見る顔だった。彼女は人懐っこくて俺が喋らなくても一方的に話していた。たまに同意を求められたりして、適当に相槌を打てば更に話は盛り上がる。(と言っても話すのは彼女だけ)
俺のことを学校では知らない奴なんていない。と思う。良い意味じゃなくその反対で。かなり浮いた存在。他校のガラの悪い連中と連んでるし、ケンカだって日常茶飯事だ。(自慢だけどそこそこ強い)そんな俺のことを知らない彼女に吃驚だった。しかも同じ学年だと言うじゃないか。でも、だからなのかもしれない。彼女と一緒にいる時間が、嫌じゃなかった。




「あの雲合体した」



「ふーん」



「有村くんて彼女いないの?」



「いない」




うそっ!?と声をあげながら起き上がった彼女は目を丸くして俺を見下ろした。彼女の頭で太陽が隠れて俺の顔に影が出来る。出会った頃みたい。



「モテそうなのになー」



「そういうあんたはいないの?」



「いないよ」



「どんな男が好き?」



「なんか、今日はえらく興味持ってくれてるじゃん」




少し嫌な笑顔を俺に見せながら言った彼女に顔に熱が集中するのが分かった。そう、早い話が俺は彼女に惚れてしまっていたのだ。いたたまれなくなり腕で両目を隠し彼女の言葉をただ待った。




「んー……強い人、かな?」



「俺みたいな?」



「ははっ、違うよ」




乾いた笑いを零した彼女を盗み見た。膝を抱えて空を見上げてる。白い肌が太陽に照らされ、もはや透明に見える。今にも消えてしまいそうな感じ。儚いってまさにこのこと。
重たい体を起こせば見上げていた彼女を見下ろす位置になった。小さいな、ホント。存在は大きいんだけど。
彼女を包むように手を壁にくっつければ何事かと俺と視線を合わせる彼女の唇に自分のを押し当てた。冷たかった。




「好きなんだけど」





















結果は見事撃沈。俺は強くないからだって。ケンカなら自信あるのに、そう、その時は思っていたけど、彼女の言う強さの意味が最近になって分かった。苗字名前なんて人、うちの学校にいない。卒業生にもいない。一年の時に病気が発覚し、渋々退学した女の子がいたらしい。名前と同じ名前だった。入院生活に飽きたのか、病院を抜け出しては学校に忍び込んで非常階段である男と無駄話していたらしい。俺の事だ。俺が告白して以来そこに来なくなったのは、様態が悪い方向へ向かったかららしく、そのまま会うことがないまま彼女はいなくなった。うん、俺、名前の言う通り強くないや。名前の求めていた強さは、ケンカとかそういうんじゃなく、今この状況を乗り越えられる強さ。自分がいなくなる事、名前はあの時既に分かっていたんだ。俺は乗り越えられないし、受け入れられないよ。

見上げた空はとても眩しくて、影を作ってくれる人がいないとダメみたい。


俺は彼女がいないと、ダメみたいだ。











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