短編 | ナノ
※人への用途は禁止です※
*************************










今いちばん欲しい物は何?という雑誌のインタビューなどでよくありそうな質問をされたら今の俺はこう答えるだろう。






















夏も終わりに近づいた頃、まだまだ暑さは健在で陽が沈んだ夜でもその暑さはなかなか消えてはくれない。毎年地元で開催されているこの小さな祭りに来たのは学生時代以来で、なんだか凄く懐かしい。まぁそれだけ年を取ったということか。深く考えると虚しくなるのであまり考えないでおこう。

祭りらしく浴衣を着て、綺麗な髪もアップにして普段は隠れている白いうなじが露わになっている。え、俺じゃないよ。俺の隣に居る女の子。俺の好きな子とも言う。因みにはぐれちゃ大変だからというベタな台詞で繋いだ手と手。暑いんだけど、なんだかあったかい。


一通り神社を周り、リンゴ飴や焼きそばを分け合って、帰り道を人だかりに混ざってゆっくりと歩いてるそんな時。
彼女の家に着けば、まるで魔法が溶けるみたいに繋いでいる手は離れちゃうんだ。それはとてもあっさりとしていて、今までのキラキラした時間が幻だったと思ってしまうくらい儚くて。さよならの瞬間が来なきゃ良いのにって繋いでいる手に力を込めても、そこに進む足は止まらなくて。人の流れに沿って歩く俺達は恋人同士に見えているのかな。そう考えると嬉しくて、つい緩みそうになる口元を手の甲で隠した。良かった、暗くて。






「やっと人ごみから抜けれましたね」



「だね」



「私人ごみって苦手なんです」




そうなんだ。じゃあ、今日お祭りに誘ったのはマズかったかな。疲れた笑顔を見せる彼女に今更後悔。





「でも、今日は、あまり嫌じゃなかったです」



「そうなの?」





普通に聞き返した俺を見上げて彼女はポツリと呟いた。確かに聞こえた「鈍感」という言葉の意味が分からない俺は何も言えない。俺、鈍感なの?鈍感なのは彼女の方だと思うけど。お祭りに誘った理由も、繋いだ手の本当の理由も、俺の気持ちも、今この瞬間いちばん欲しいものも知らない鈍感な彼女は不服そうに口を尖らせている。





「有村さんとこうしてたからですよ」




彼女はそう言って繋いだ手を二人の目線まで上げて俺に見せつけた。指と指を絡ませた所謂恋人繋ぎ。俺とこうやって手を繋いでいたから嫌じゃなかったってこと?なにそれ、そんな事言われたら期待するんだけど。






「……な、何か言って下さいよ」



自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか、目を泳がせて少し冷たい口調の彼女。あ、かなり可愛い。





「接着剤欲しいよね」



「はぁ!?」





祭りの名残もすっかり消えた住宅街に彼女の声が響いた。






「瞬間接着剤がいいな。ここに、ね?」





さっき彼女がしたように、今度は俺が二人の目線の高さまで繋いだ手を持ってきた。数秒目を丸くしてキョトンとした表情を見せた後、納得したように前を向いて歩き出した彼女の頬は赤い。照れを隠すようにツンケンした声で話し出した。






「有村さんの表現って独特で分かりづらい」



「どういたしまして」



「褒めてないです!」






早歩きになる彼女に引っ張られるようにして街頭に照らされた暗い道を歩いた。
今、瞬間接着剤があればいいのに。永遠に離れられないくらい強力なやつ。繋いだ手にも、繋がった心にも沢山塗ってさ。ずっと一緒に居るの。ねぇ、それってかなり素敵だよね。
















(あー、接着剤が欲しいなー)

(まだ言ってるんですか?そんなのなくても、ずっと一緒にいますよ)











*************************

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -