短編 | ナノ
哀の呪文、リフレイン
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気持ちって感染するものだと思う。だって、そうじゃなかったらこの世界で恋人や夫婦ってほんの一握りだと思わない?沢山の人間がいて、その中でお互いがお互いを好きになる確率って数学的に考えて相当低い、それこそもう奇跡に近いものでしょ。だけど不思議なことに、この世界には恋人も夫婦も沢山、当たり前のように存在するから。それって一方の想いが相手に伝わって、感染して同じ想いを抱いた結果だと思う。だから、ずっとずっと俺が諦めずに想っていれば、彼女はいつか俺を見てくれると思うんだ。






「好きだよ名前ちゃん」



「!!し、仕事中ですよっ」



「じゃあ仕事終わってからだったらいいの?」




仕事中の名前ちゃんに近づいて何時もの如く想いを伝えたならば彼女は苦笑いを見せ困った顔をしていた。
可笑しいな。もう何日も前からこうやって俺の気持ちを伝えてるのに彼女には全く届いてなくて。きっと、まだまだ足りないからなんだ。もっともっと強く想わなきゃ、伝えなきゃダメなんだ。だって、気持ちって感染するものでしょ?この世界に幸せな恋人や夫婦が存在するのは、諦めずに想い続けた結果でしょ?





「もう、本当に、やめてください……」




声のトーンを落として俺にそう言った彼女には、どうしたらこの想いが移るのだろうか。こんなに、こんなに好きで、好きで仕方ないのに、どうして俺を好きになってはくれないのだろう。





「でも、ホントに好きなんだよ」





小さな手を握って苦い顔をする彼女を見下ろせば、小さく肩を揺らして反応した。咄嗟に引いて離れてしまいそうだった手をさらに強く握り締めると、彼女はあからさまにため息を零す。




「……有村さんは、あたしの気持ち、全く考えてくれないんですね」



「そんなことない、」



「あります。自分の気持ち押し付けるばかりじゃないですか……」






チカチカめまいがした。余りにも俺の気持ちは彼女とかけ離れ過ぎていて。自分の気持ちばかり、押し付けていたつもりなんかないのに、ただ彼女にも俺と同じ想いを抱いて欲しくて。あぁ、そうか、俺、自分の気持ち押し付けていたのかも。だってそうすれば、いつか俺の事、俺が彼女に向けた想いと同じ想いで見てくれると信じて疑わなかったから。しかし名前ちゃんにはそれが伝わるどころか、迷惑になっていたなんて。でも、だからといってどうすることも出来ないよ。だって、だって俺は………















「好き……好きなんだよ」
















だって俺はこの言葉しか知らない。
抑えきれない想いを伝える唯一の言葉は、彼女を苦しめるだけだった。







(哀の呪文、リフレイン)


それでも繰り返す











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