続きは制服を脱いでから


『き、の…したせんせ?』

満月の明かりだけが頼りの丑の刻。
見るも無惨に血だらけになってしまった可愛い私の教え子は、既に呂律の回らないその唇で吐息を洩らす様に私の名前を呼んだ。いつもキラキラと輝いていた大きな瞳は今や薄暗く濁っていて、既に生気はない。強く抱き締めた腕に首に身体に滑る鉄臭い液体が、ぽたり。


「わたし、へへ…いい生徒だったかなぁ…?」

「名前…」

「だいすき…、だいすきですよ」



だから泣かないでくださいよ、
声にならなかった最後の言葉。
直後彼女はまるで眠るように目を閉じ、二度とその黒く美しい双眸を見る事は叶わなかった。

ああ、止めろ止めてくれ。
いかないでくれ。


生徒に置いていかれる気分というのは、本当に何度経験しても慣れる事はない。


慣れてたまるものか。



「卒業前に死ぬなんて…どんだけ手かかるんだお前は…っ!」



流れる涙が、冷たい肌の上で空しく弾けた。




――――――



「木下先生」

門の前に植えてある二対の大きな桜の樹の下。春特有の暖かく柔らかな風に吹かれ、はらはらとその美しい姿を散らしている。私の教え子達が三年間の学生生活を終えて旅立つ三月のある日、聞き覚えのある声が名前を呼んだ。

ゆっくりと振り返れば、卒業証書を片手に微笑んでいる名前の姿。何か言いたげにそのキラキラ光った大きな瞳を潤ませている。

「…名前」

「私、やっと卒業できますね」

嬉しいのか、それとも悲しいのか。
私には分からないが彼女は振り絞るような声でそう言った。

そして私が思い出すのは、今やすっかり色褪せてしまったけれど決して忘れる事のできない遠い遠い日の記憶。


「木下先生、大好きですよ」

「ああ知ってるよ」

「それでももう一度、何度でも言いたいんです」

あの時とは違う温かな血が流れるその手で、優しく頬を撫でられる。愛しげに見詰められては困ってしまう。私と名前はまだ先生と教師。こんな所を他の奴等に見られたらなんて言われるか分からない。

「…私、良い生徒でした?」

私は傷一つ無い綺麗な彼女の手を取り、不器用に笑う。それからそっと彼女を抱き締めて額に唇を寄せた。

「お前はいつも私を困らせる…悪い生徒だったよ」

「木下先生、私嬉しい」


先生と生徒の恋は、ここまで。


続きは制服を脱いでから






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