待つということ
仁之進と山野先生に見送られ、忍術学園で泣きはらした顔の喜三太にも会えた。
風魔は忍術学園程賑やかでは無かったけれど、楽しかったし充実していた。それに、きっとまた会える。
与四郎は、これから忍者として生きるのか、と考えて先程喜三太と別れてからずっと頭の中を占めている人物に会おうと思った。
何度も忍術学園や遠い地を踏んだ与四郎に取っては距離がある訳ではないが、如何せん全く暇が無かったのだ。
彼女に限ってそんなことはないと思うが、もしかしたらもう待って居てくれないかもしれないと思ったらいつも不安になってしまう。
「名前、居るけ?」
この時間なら家に居るだろうと暖簾を手で押し上げて中を覗き込むも、留守らしい。
見知らぬ中でもないし、中で待っていてもいいのだが、如何せん久しぶりでどうすればいいのか分からない。
幸か不幸か、周りには誰も居ないので外で待つことにした。
「名前は、こんな気持ちだったのかな」
ふうと息を吐き、夕方に差し掛かろうとしている空を見る。
何かあったのではと心配し始めてから、時間が気になっていたのだ。
探しに行くべきか、否か。
探しに行くとなると入れ違いが困る。また会えなくなることを考えれば、一目だけでも見ておきたい。
否、本当は―――
「与四郎さん?」
は、といつの間にか閉じていた目を開ければ、待ち望んでいた人で。
衝動的に抱きしめた。
「え、なんで、家に居ても良かったんですが、あの」
戸惑っている様子の名前を抱きしめる力を強くする。落ち着かせるように背中に何度も触れる名前の暖かい手が愛おしい。
「とりあえず、中に―――」
「名前」
肩を掴んで真っ直ぐに名前を見つめた。
「お前はこんな気持ちだったんだな」
何がなんだか分からないといった表情の名前に更に言葉を続ける。
「我が儘だと思ってる。家を空けることもあるだろうし、傍に居る時間も少ないかも知れない。それでも、」
「名前に、傍に居て欲しい。家で、オラの帰りを待って欲しい。
オラと……俺と、結婚してください」
言い終わるやいなや、ぽたりと涙を零した名前に目を見開く与四郎。
「やっと、言ってくれましたね」
涙を親指で拭っていると、照れくさそうに笑う名前が口を開いた。
「私、覚悟はできていましたよ。恋仲になってからずっと。……でも、
あんまり待たせたら、愛想、尽かせてしまいますからね」
茶化す名前をもう一度抱きしめれば、先程より心臓の鼓動が早い。嗚呼、気を使わせて、待たせてばかりだと与四郎は思う。
でもそれでも、たとえ彼女が嫌がっても、
この温もりは手離せそうにない―――