きみからの卒業
「名前ちゃん。」
「あ、鉢屋くん!今日で卒業だね。」
今日で忍術学園から卒業する。
「名前ちゃん。僕、三郎じゃないんだけど…。」
「えっ!ご、ごめんなさいっ!」
卒業する今日の日も名前ちゃんは僕と三郎を間違える。
彼女はいつも僕を見て三郎と呼ぶ。三郎を見て僕とは呼ばないのに。
「ご、ごめんね。不破くん。わざとじゃないんだけど…。」
「分かってるよ。僕だって慣れてるし。」
三郎に間違えられるのはもう慣れてしまった。伊達に六年間親友をしてたわけじゃない。三郎の腕が上がってるってことだからね。それは親友としても誇らしい事だ。
「ご、ごめんね……。」
だがそれは、他の人から言われるならというだけの話しだ。誰が好きな子に間違われてうれしいだろうか。それに毎回。ずっと。年単位で。
「いいよ。」
口ではいいよとか言っておきながら、心の内ではどろどろと黒いものが漂っている。
「卒業の日まで間違えるなんてね。えへへ。」
「…そんなに三郎の事が好き?」
「えっ。」
顔を赤くしながら、しどろもどろに答える。知ってる。名前ちゃんが三郎の事を好きだってこと。僕は更に知ってる、
「あっ!雷蔵!聞いて聞いてっ!…あれ? 名前?」
「あ、鉢屋くん…。」
「どうしたの、三郎。」
「あ、そうだっ!聞いて!さっき告白したら、付き合ってくれるって!」
「………」
「そ、そうなの……。」
三郎には好きな人がいるってこと。
僕らは長い間、一方通行の片思いをしていた。
「…お、おめでとう、鉢屋くん!」
「ありがとう、名前。」
「よかったね、三郎。」
「あぁっ!これから話をしてくるから雷蔵、また後でなっ!」
「うん。」
それも今日で卒業。
「……振られちゃったぁ………。」
「ごめん…。」
今日僕は忍術学園から卒業する。
だから、この思いからも。
「私も知ってたんだ。鉢屋くんに好きな人がいるってこと。それでも、諦められなかったんだ。」
卒業しなければ。
「ねぇ、名前ちゃん。」
「なぁに?」
この想いから、
この学園から、
三郎から、
きみから、
「僕と一緒に、この想いから卒業してくれませんか。」
卒業したいんです。
「……綺麗だね、」
「もう卒業の時期だもんねぇ。」
「もうそんな時期か……。」
「ふふふ。あれも随分前の事なのね。」
「名前。」
「なに?」
「僕の恋仲を卒業してくれませんか。」
そう言って差し出す、純白の着物に目を輝かせる名前に僕は一生卒業にできそうにない。