いつかの未来


出逢ったのが十歳の時。惚れたんだと気付いたのが十二歳の時。同時に失恋したのもその時だ。あの男が見ているのは俺じゃなくて、そばにいられるのも俺じゃない。わかっていた。痛いくらいに。切ないくらいに。


「色んな意味でむかつくアンタも、もう卒業か。あー、せいせいする。さっさと卒業すればいいんじゃねぇ?体育委員会は俺に任せてくれればいいですよ」
「ほお?随分と生意気な口をきくんだな?あーあー、残念だなぁ、お前は私のために泣いてはくれないのだなぁ」
「当たり前だろ、なにいってんだあんた。」

寂しいなんて言ってやらない。好きだ、とも言ってやらない。これが俺の精一杯で。
俺は見てた。あの人の卒業式でのあんたの顔も、あんたの瞳から零れた涙も。全部、見てたのは俺なのに。越えられないことくらいわかっていた。代わりにすらなれないことも、知っていた。それでもあんたの側に居ようとしたのは、俺の精一杯の反抗で。

「なぁ三之助」
「…はい?」
「この私とひとつ、約束をしないか?」
「はぁ?」

何が言いたいんだ。何が約束だ。生きていられるかもわからないのに。所詮幻想。夢物語。なのに期待してしまうのはどうしてだろう。二人だけの約束という言葉に、心を踊らせるのはなぜだろう。残された時間はほぼ無いに等しいのに。

「もう少し先未来。いつかはわからない。けど、いつか。私がかならずお前を見つける。待っていろ。」
「わけわかんねぇ」

そうか、そうだな。あんたはそう苦笑した。なんなんだよ。なんだよあんた。もう会えないみたいな顔して。腹立つ。言いたいことがあれば言えばいいだろ。そうやってなんでも黙ってるから、あの男にもなにも伝わらなかったんだ。

「あんたなんか大嫌いだ。」
「そうか。私もお前が大嫌いだよ。」

叶うかわからない未来のやくそく。
大嫌いだ大嫌いだといいながら、何処かで愛してると叫ぶ俺は、きっとこの人に負けないくらいに馬鹿なんだろう。


いつかの未来




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