図書委員であるわたしは、週二回、お昼休みと放課後は図書室で業務を行っている。まあ図書委員なので、主に本の貸し出し受付を担当している。委員長で同級生の中在家くんは、ちょっと向いてないみたいだからね。

放課後は割と人はいるけれど、お昼休みなんて滅多に生徒は現れない。食堂や中庭でみんなとおいしくご飯を食べる方が、いくら図書室が日当たりよくっても楽しいに決まっている。あんまりに人が来ないものだから、図書委員も一人しか常駐していない。火曜と木曜はわたしの担当だ。
そんなふうに閑古鳥が鳴くから、毎回お昼休みにやってくる、とある男の子に気が付くのも時間の問題だった。


「返却お願いします」
「あ、はい」


カウンターで彼から本を受け取って、返却完了を伝える。
律儀に会釈をしてくれる、くくちくん(と読むのかな)はそのまま帰らず、私が退室を促すベルを鳴らすまで、一番日当たりのいい席で本を読んでいる。

彼について知っていることなんて、本当に少しだけ。
名前と、学年クラスと、いっつも料理の本を借りていくこと。借りた本を返す時には、わたしに会釈を必ずすること。たまにポストイットを付けたまま返却してくるから、豆腐料理が好きらしいこと。それだけ。




「――あ、そういえば不破くんさ、ククチくんって知ってる? 同学年の」


今日は中在家くんじゃなくて、後輩の不破くんと業務を一緒する日だったので、ふとあの久々知くんについて何気なく尋ねてみる。
すると、不破くんは一瞬動きを止めたあとに、ふふと小さく笑った。


「いきなりどうしたんですか? 知ってますけど」
「なんかね、お昼当番の時よく来るんだ、その人。あっ放課後も割と見かけるかな?」


不破くんは軽く笑っただけでそれ以上何も言わなかった。その時は訝しく思ったけど、次第に忘れてしまった。
そして火曜の昼当番のとき。また、久々知くんがやってきた。
いつも通り、本を返しにきたのだろうなと油断していた。


「雷蔵から聞きました」
「へっ? らいぞう……ああ不破くん?」
「はい。俺のこと気にしてたって」


いやいやいや不破くん何を尾鰭つけてるの! 確かに気になってはいたけど、なんかその口ぶりは気がある方に聞こえちゃうでしょう!


「違うんですか?」
「えっ、あっ、違うというか、いっつもここに来るし、挨拶してくれるし、豆腐料理好きなんだなあとか、髪の毛きれいだなあとか……」


完璧に墓穴。これではストーカーのようじゃないか! ああ絶対ドン引きされた、ていうか何でわたしこんなあたふたしてるの?
そんなわたしを見て、久々知くんは笑った。初めてみたから一瞬言葉を忘れた。


「やっと気付いてくれたんですか」
「気付い、へ?」
「大変でしたよ。じっと見てるだけじゃ全然気付かないから、雷蔵通して曜日聞いて通いつめて……サブリミナルも案外使えるものだな」


サブリミナルって、ちょっと待って、え、じゃあそういう意味でわたしを気にして、いつも担当の時にいたっていうの。
理解した瞬間、かああっと全身の血が顔に集中するのがわかった。そんな事を真正面から言われたら、恋愛経験の希薄なわたしは簡単に意識してしまうよ。
赤面やまないわたしを前に、久々知くんは悪戯っ子みたいな、してやったりという笑みを浮かべさらりと言いのけるのだ。



意識しちゃってください