酷い……

いくら「彼女じゃないぞ!ただの幼なじみだ!!」でも、自分から誘っておいた女の子一人残して……

何が…
何が……
なぁにっがっ!ビーチバレーデスマッチだっ!!


昨夜の、ことだ。
夕飯時だというのに、隣に住む小平太がいきなり

「明日海に行こう!朝迎えに行くから準備しといてくれ!!」

と、玄関先で吠えた。
お父さんはお味噌汁を吹き出すし、妹は「明日も猛暑だって、姉、倒れんなし」とか言うし、お母さんは慣れたもんで、あらあら、なんてこぼれたお味噌汁を拭きながら「水着はまとめて納戸あるわよ。」になんて言うし、私は慌てて満足気に帰ろうとしている背中を捕まえて、詳しく時間を決めさせた。

夏休みに海。
確かに彼女じゃないし、仲が良い幼なじみな今の関係から特別脱したい訳でもない。
けれど、家族以外と海に行くのは初めてのことだし、なんか二人で行く事になってるし、なにより海に入るのなんて小学生以来で純粋に楽しみにしていた。

なのに……着いて早々、たまたまその場に居合わせた部活の後輩たちを見つけるや否や、「彼女ですか?」の質問に激しく全力否定すると冒頭まま、炎天下の砂浜でバカみたいにはしゃいでる。
もうずっと。
ほったかされた私は一人でパラソルを借りて砂浜に突き立てて、荷物番しながら、日陰の中、遠巻きにビーチバレー観戦だ。
三角座りで。



「このあっつい中よく倒れないなぁ……」


段々とルールを無視し出した確かにデスっぽいバレーを、呆れながら見つめているのも飽きた。


「なんか、買ってこよ…。」


肩に引っ掛けていたUVカットのパーカに腕を通し、意を決してパラソルの日陰から一歩踏み出す。

「うっわ…眩しっ……」

ガツンと体当たりしてくる日差しに思わず目をつぶった。

ざりざりと砂地を歩く自分の足先を見つめて歩く。
昨夜、慌てて塗った割にはきれいに出来たペディキュアが砂塗れだ……
見ているうちになんだか気が滅入りそうだが、なにせ日差しが眩しくて顔が上げられないのだから仕方ない。
(くっ…目が日差しに負ける。真夏の海、舐めてたわ……)

そのまま下げた視界の端に入る人影を避けながら歩いているうちに、焦げたソースのいい匂いが漂ってきた。


「お姉さん、大丈夫?」

「え?」


不意に頭の先から降ってきた声に驚いて顔を上げる。

(うっ…目が痛い……)

「なんだ、泣いてるのかと思って、俺、心配しちゃったよ。」


海の家の軒先でバイトをしているのだろう、首にタオルを巻いた八重歯の男の子に顔を覗き込まれていた。


「な、泣いてなんかないよ!」

「わりぃわりぃ、ははっそんなに怒んないでよ。せっかく可愛い水着着てんのに…それ、よく似合ってるよ?」

「いいよ…おべっか使わなくても……」

「違うって!あ、ほら、これ、かき氷あげっから機嫌なおして?ね?」


なんて言いながら、都合よく手にしていたかき氷を半ば押しつけるように渡してきたから驚いた。


「え、ちょ………いいの?」

「いいのいいの!この海に来た人に楽しく過ごしてもらうのが俺の仕事だから!…なんて、実はそれオーダーミスった分なんだ。気にしないでやっつけちゃって!」


そういう事なら、と安心してスチロールカップの溶け掛けたそれを受け取った。


「どうせならイチゴがよかったなぁ……イタッ!」

「タダなんだから贅沢言わなーい!その水着、本当に似合ってるよ。」


そう言って、見るからに年上の私の頭を叩いたその手でわしゃわしゃと撫でて、「美味しかったらまた来て」とバイト君は仕事に戻って行った。


「ブルーハワイ…久しぶりに食べるな。」


お祭りの屋台などでいつも私がイチゴで小平太がブルーハワイなのが小さい頃からのお決まりだった。

冷たい氷で頭も冷えてきた。
さっきのバイト君が私に「大丈夫?」なんて声を掛けてきたたのは、折角海に遊びに来てるのに余程つまらなさそうだったんだろう……
よく考えたら後輩に好かれるのも、面倒見が良いのも、悪いことではない。

(あんだけはしゃいでるんだから、あいつらはもっと暑いだろうに…戻ったら、かき氷のお礼にこの店にみんな連れてこよう。)


「ごちそーさま!おかげで元気でました。ありがと。」


店先でバイト君にお礼を言うと、彼氏と仲直りしろよ〜なんて送り出されてしまった。

「違いますぅー!!」


そのまま汗だくではしゃいでる小平太達の元へ向かった。


「ねーぇ!皆そろそろ休憩したらぁ?!」


ぎゃあぎゃあ騒いでる彼らに負けないように、大声で声を掛けたら小平太が悔しそうに叫んだ。

「あーっ!!一人でかき氷食って来たな!」

「えっ?」

「だって舌が真っ青だぞ!ずーるーいーぞー!」

「わわわちょっや……っ!!」


騒いでいるテンションそのままに、突進してきた小平太を受けとめられるはずもなく、そのまま砂浜に押し倒された。

衝撃にぎゅっと閉じた目を恐る恐る開くと、のしかかる小平太が影になって今度は眩しくなかった。

「…待たせてごめんな。」

「あ……うん。お腹減ったよ。」

「ははっ私もだっ!よし!みんなで飯にしよう!!」


なんだか真剣な顔で、打って変わった静かな声で謝られて、ちょっと……驚いた。
けれどすぐにニカっと笑うと、勢い良く立ち上がる。


「うわっ」


ほらまた、仰向けの私に日差しが刺さるものだから、ぎゅっと閉じた目を
ほら、と言われて再びゆっくりと開けば

手を伸ばす小平太の笑顔と


夏の大空。