「テスト終了おお!」
「イェーイ!」

テンション高く、パチン!とハチとハイタッチ。ガヤガヤ騒めく教室の中、鞄を机の上に放置して、ハチと喜びを分かち合う。隣で雷蔵が苦笑しながらも、楽しそうに笑った。

「二人ともテンション高すぎ」
「だって雷蔵!長い長いテスト期間が終わったんだよ!地獄のようなテスト期間が!」
「つっても、大して勉強しなかったけどな」

あっはっはっ!とハチと笑えば、向かいにいた三郎が呆れたような表情で頬杖をつく。

「お前らっていつもそうだよな」
「いやあ、ついつい遊んじゃうんだって」
「後でしようって思うんだけど、結局最後は、まあ何とかなるでしょうって結論になっちゃってさあ」
「そうそう!実際ヤバイんだけどねえ。勉強しとけば良かったのに自分のバカ!っていつも思うけど、教訓を次に生かすことが出来ないんだよね。次になったら、またどうにかなるって思っちゃう」
「……お前らアホだろ」

心底呆れたという口調で言い、三郎は鞄を持って立ち上がった。

「兵助と勘右衛門を迎えに行くぞ」
「はーい」

皆して鞄を持ち、三郎の後に続こうとしたが、教室を出ようとしたところで、ドアからひょっこりと勘右衛門が顔を出した。

「あ、みんなやっほー」
「勘ちゃん!」
「いいタイミングで来たみたいだね」

にっこりと勘ちゃんが言った後ろから、兵助も顔をのぞかせた。

「出た!学年一の秀才!」
「…ハチうるさい」
「でもさあ、どうせテスト出来たんでしょ?」
「当たり前だろ、お前らと違ってちゃんとテスト勉強したんだから」
「くっ…!正論なだけに心が痛い!」

わいわいガヤガヤ騒ぎながら教室を出て、下駄箱を経由した後六人固まって帰路につく。
兵助は毎回ほぼ百点に近い点数をとり、勘ちゃんもいつもいい点をとる。三郎は本当は出来るけれど、わざと手を抜いて平均点辺りをとるし、雷蔵は平均点を必ず越える。ハチと私は勉強せずに、当然の結果として赤点ギリギリをとるのは、最早見慣れたものとなっていた。
わくわくと声音に高ぶった感情を交えながら、突然ハチが声をあげた。

「ま、何にしても、あとは夏休みを待つだけだ!」

夏休み、という言葉に、雰囲気は一気に盛り上がる。雷蔵がにこにこしながら、ハチに声をかけた。

「ハチは夏休みの予定何かあるの?」
「雷蔵、ハチと言ったら虫取りだろ?」
「毎年のことだしね」
「おう、今年は裏々々々々山辺りに行ってみようと思うんだ」

にっかりと笑ってハチは言った。

「毎年毎年同じことばかりだな。違うことをしてみようと思わないのか?」

嫌悪感を込めているわけではないが、ひょいっと放り込まれた言葉にハチは少しだけムッとする。兵助はあまり抑揚のない声音で話すから勘違いされやすいのだが、からかいを交えた言葉だとこの場にいる友人達には分かっているので、ムッとした顔になったハチも本気でむくれているわけではない。むしろ、ムッとした表情をつくったハチに対しての笑いがこぼれていた。

「好きでやってるんだからいいだろ?そういう兵助はどうなんだよ」

拗ねたハチが聞き返す。だが、次に兵助が発した言葉に、小さな笑いは大きな笑い声に変わった。

「俺は豆腐を作る」
「それこそ毎年のことじゃねえか!」

笑いの渦の中、真顔で言った兵助にハチの的確なツッコミが入った。
ひいひいと笑いすぎで悲鳴を上げていた名前は、浮かんだ涙を人差し指で拭いながら、同じように爆笑している三郎を見た。

「あーもー兵助面白すぎる!三郎は夏休み何するの?」
「え、私?私は雷蔵のとこに泊まりに行く予定だ。いいだろぶはっ!」
「人の顔見て笑うなんて失礼だぞ三郎」

三郎の予定を聞いて、へえと相槌をうった兵助の顔を見た瞬間、三郎は思いきり噴き出した。どうやら、ようやく笑いが収まったと思ったところで兵助を見て、さっきの会話が甦ったために笑いが再発したらしい。その様子を見た周りにも笑いが広がる。
ちょ、もう笑いすぎでお腹痛い…!

「じゃ、じゃあ、雷蔵は三郎との予定があるってわけだ」

笑いを収めようとしながら勘ちゃんが言うと、同じように笑いの渦から抜け出そうとしている雷蔵が応えた。

「うん。勘右衛門は?」
「俺はまだ予定ないんだ」
「あ、なら、私とスイパラ行こうよ!勘ちゃん甘いもの好きだったよね?」

一緒に行こうと誘うと、勘ちゃんは見る見る目を輝かせた。

「うん!めちゃくちゃ行きたい!」
「良かったー、前から行きたいと思ってたんだけどなかなか行けなくて、夏休みこそは!って思ったんだよね」

それに一人で行くよりも勘ちゃんいたほうが楽しいし!絶対行こうね!と続けると、三郎が不満げに口を開いた。

「えー、お前らだけずるくね?私等仲間外れじゃん」
「いやいや、みんなそれぞれちゃんと予定あるんだからいいでしょ?三郎だって雷蔵とお泊まりするんだし」

どこがずるいんだと返答すれば、兵助までもがずるいと言いだす。

「そういうとこは、みんなで行くことに意味があると俺は思う」
「とか言って、兵助とかあまり甘いもの好きじゃないでしょ」
「杏仁豆腐なら大好きだ」

兵助まで一体何を言いだすんだ。なんだか怪しい流れになってきたぞ、と思っていると、突然ハチがいいことを思いついたとばかりにパッと顔を輝かせて、トドメの一言を放った。

「そうだ!これからみんなで行かね?」
「ナイスハチ!」
「え、ちょっと、私と勘ちゃんの予定なのに!」
「いいだろう?私達は六人でひとつじゃないか」
「いや意味分かんないよ」

勘ちゃんの予定がないから、誘ったのになあ。これからみんなで行ったんじゃあ、また勘ちゃんの予定が白紙に戻っちゃうじゃないか。
みんなで行く方向に盛り上がっていくのを見て、ふ、とひとつ息を吐く。それから、小さく笑みを浮かべた。……ま、いっか。

「勘ちゃん、みんなで今から行くことに変更してもいいかな?」
「うん、俺は全然いいよ。みんなで行ったら楽しいしね」

にっこり笑って言った勘ちゃんに、そうだねと笑いかけて、夏休みにすでに予定が入っている四人組の方を見ると、今の会話を聞いていたのかワクワクした表情でこちらの様子をうかがっていた。それに対応するように、ニッと口角をつりあげて口を開く。

「…じゃあ、みんなで行きますか!」

とたんにわっと上がった歓声がおかしくて、思わず笑いがこぼれた。



テスト終了!