俺の席は誰もが羨む窓際の一番後ろの席。
後ろの席は先生の声が前の席より小さく聞こえて集中力が散漫となる。
それに追い打ちをかけるこの、憎たらしいほどの快晴。窓から入り込むぽかぽか陽気に容赦なく睡魔が襲ってくる。

先生の声がさらに遠くなる。だ…駄目だ俺。この先生の授業で寝てしまったら俺凄い怒られちゃうだろ!後五分だ…耐えるんだ…!



キーンコーン

「今日はここまで!」


チャイムと同時に教室を出て行く先生を見送り、よく耐えたと自分を褒める。
授業は終わっても睡魔の攻撃は終わらなかった。これは次の授業眠る、絶対に。
もういっそのことサボタージュしちまうかな!




ガチャりと少し錆びた扉を開ければ心地の良い風が俺の頬を撫でる。そして目の前には教室でみた空と変わらない雲一つ無い青空が広がっていた。

やっぱり屋上ってサボリの定番だよね。
よっこらせ、と床に寝転がる名前
仰向けになれば燦々と輝く太陽が眩しくて掌を太陽に翳してみた。目を細めていたらフッと視界から太陽が見えなくなってしまった。代わりに俺の視界は人影に覆われる。


「なんだ、珍しいな名字がサボリなんて。」

「あ、鉢屋クン…」


よいしょ、と再び若者に似つかわしくない掛け声で起き上がる。

「そう言う鉢屋クンだって、頭イイのにサボタージュ?」

「おいおい、私をそんなに買い被るなよ。」

気怠そうに欠伸をしながら鉢屋クンは俺の隣に座り込む。
そういえば、同じクラスだけど俺はあまり鉢屋クンと話したことがない。彼はいつも不破クンと竹谷クンと、名前は知らないけど隣のクラスの子と一緒にいるところを見掛けるからそういう機会がなかったな。面と向かって話すのはこれが初めてかもしれない。


「よく、ここに来るの?」

「あまり来たことはないな。名字は?」

「うーん、偶に来るくらいかな。今日みたいに天気のいい日は、よくここに来るよ」


当たり障りのない会話でも鉢屋クンとはこれくらいが丁度いいんじゃないかなって思った。

「ふーん」

鉢屋クンは自分から聞いておいて興味がない、というように目を細めながらふわぁと眠そうに欠伸をしていた。



それを見ていたら自分も欠伸をしてしまった。鉢屋クンの欠伸が移ったみたい。
少し沈黙があった後、突然鉢屋クンは

「なら私も、天気のいい日はまたここに来てみようかな」

「へ…?」

「そしたら名前とまた話せるだろ?またな名前」


またな、と言葉を残して屋上から去っていった屋上への入口を俺はただじっと見つめていた。……忍者か。



もう一度空を仰いだらやっぱり教室からみた空と変わらない雲一つ無い青空だった。