空は快晴、吹く風はどこまでも暑く、いつもより日差しも近く感じた。


何処か遠くで蝉の声が聞こえる。


手裏剣投げの自主練習をしていた私は、暑い気温のせいで流れてくる汗を拭った。


「気持ち悪い」


そう呟いてもこの不快感は変わるはずもなく、仕方なく手元にある手裏剣をまた的に向かって投げた。


全て投げ終えると、私は後ろでザクザクと聞こえる音に振り向き、その音を出している紫の少年に声をかける。


「綾部。さっきからザクザクほってるけど、いつもより作るの遅くない?」


天才トラッパーの異名を持つ彼は、落とし穴(本人曰く蛸壺)を掘るのが好きだ。

そして何より、毎日掘っているせいか、作るのがとても速い。時々見かけていたから、どれくらいでできるのかを、だいたい私は知っている。

だけど今日は、確実にいつもより進んでない。


「湿気が足りない」

「へ?」


サラサラしててやりにくいと彼は愚痴をこぼしながら、その麗しい顔を汚していた。


「あぁ。そういえば最近降らないもんね、雨」

「もっと下を掘れば少しは湿ってるのに」


ほんの少し不満そうに表情を歪めた綾部は、また続きを掘り出す。

私はそんな綾部から離れ、近くにある井戸に近づき、手拭いに水を浸して首に巻いた。


「冷たくて気持ちいい」


汗を拭えば、いくらか不快感がマシになった。

私は、水で吹いた後に、スースーするこの感じが好きだったりする。


私はしばらく桶の水を眺めていると、ハッとした。

水面に映る自分の表情は、自分でも分かるほど、悪戯を閃いたと言わんばかりの笑みだった。


私は未だザクザクと掘っている綾部の所に戻る。やっぱり、あまり進んでいない。


「綾部」


呼んだら振り返ったその顔と乾燥してしまった穴に向かって、私は手に持っていた桶の水を思いっきり撒き散らした。


「!!?」

「コレで掘りやすくなったんじゃない?」


私は、髪からポタポタと滴を流す綾部にそう言った。

いくら日陰とはいえ、ずっと穴を掘っていた綾部は暑かっただろうし、さっきの水て汚れも落ちた。

服も濡れてしまったけど、この気温ならすぐに乾くだろう。

穴に湿気も戻ったし、きっと掘りやすくなったはずだ。


「じゃあ私は自主練も終わったし、部屋に戻るわ。穴掘り頑張ってね」


いいことしたなと思いつつ、踵を返して部屋に行こうとしたら足首をガシッと掴まれた。


「ぅわぁ!?」


それと同時に引かれて、強制的に穴に引きずり込まれる。

受け身も取れなくて、思いっきり腰を打った。


「いったぁ・・・。何すんのよ綾部!」

「それはこっちのセリフ。ずぶ濡れなんだけど」

「私も服が濡れたし、泥だらけなんだけど!」


人がせっかく親切心で水をかけてあげたのに。


「私にかけた時点でワザとだよね」

「いや、でも涼しくなったでしょ?」


撒いた水のせいか、穴の中はヒンヤリしている。しかし、太陽がズレて陽向になってきたため、日光で水が蒸発して蒸し暑くなってきた。


「ねぇ」

「・・・何?つーか、綾部ちょっと近いし暑いから離れて」


小さく狭い穴に2人は厳しい。しかも心なしか綾部が近付いて来たので牽制の意味も含め私はそう言ったが、綾部は私の顔の横に手をつくと、至近距離で唇を開いた。


「もっと暑いことしよっか」

「ちょっ!?あや・・・っ・・・・!」


何処か遠くで蝉が鳴いている。
日差しはとても強くなってきて、穴の中に容赦なく差し込んだ。


「顔真っ赤」

「〜っ!!!?」


そう言った綾部が、ふんわり優しく、あまりにも綺麗に笑うから、私は文句も何も言えなくて。



あぁ

暑くてアツくて熱すぎる


きっと暑さはまだまだ続くだろうこの季節に、水浴びも悪くないかもと嬉しそうな君を見て、触れた唇と顔はまた熱くなる。



その笑顔反則です