「…何でここはこんなに手を絡め合いながら歩いている男女が多いのかね立花君」

「祭りだからじゃないのか」

「それじゃあ何で私はその相手がいないんだろうか」

「それは貴様が夏休み前のカップル成立祭りの流れに乗り遅れた非リア充だからだ」

「…もうやってらんないよ」




私、in夏祭りwith立花。立花が言った通り、“夏休み前って何故かカップル急増するよね。てめぇらの思惑なんて見え見えなんだよチクショウ私も彼氏欲しい”の流れにうまく乗り切れなかった私は、そうは言っても夏の風物詩、花火を見たくて見たくてしょうがなかったのでダメもとで同じく恋人がいない立花に一緒に祭りに行かないかと声をかけたら意外にも乗ってくれたので、今一緒にここにいる。ちなみに立花は数々のかわゆい女の子からのお誘いをお断りしたという猛者である。理由は「ああいうのは面倒だ」とのこと。全国の非モテ男子が見たらお前絶対ボコられるぞというレベルだ。私も立花ボコりてぇ。あ、綿菓子。




「立花立花、」

「買わんぞ」

「ちょっ、なんで何も言わないうちから断っちゃうかな!」

「どうせ綿菓子を買えなどと言うつもりだったんだろう。貴様のために使う金は無い」

「こんなかわいい女の子に向かって言う言葉がそれ?」

「鏡貸してやるから自分の顔をよく見てみろ。時には現実を受け止めることも大事だぞ」

「かわいくないってか。一番かわいくないのは立花だバーカ。あ、おじさん綿菓子ください」




結局綿あめは自費で購入。立花はきり丸並の真正のケチだと認定。その立花は横で焼きそばを食べてる。こういうのは人が食べてるのを見たら自分も食べたくなるものだから、そうなる前に自分の綿菓子を口に入れる。うん、もふもふで甘い。




「よくそんなものが食えるな」

「そんなものって言わないでよ。綿菓子っていう立派な呼称があるんだけど」

「ざらめ糖を変形させただけの菓子だろう。これ以上太りたいのか」

「これ以上って言葉が私の心をえぐった。こういうのは美味しけりゃいいの」

「もう少し健康的な糖分の取り方をしたらどうだ」

「砂糖無くして甘さを求めるのは不可能だよ立花君」




糖尿病が怖くて綿あめが食えるかって話しだ。や、ぶっちゃけ怖いけど。それでも食べたくなるのが綿菓子マジック。これを無くして祭りはありえない。




「貴様は花火より綿菓子か」

「やだなぁ、花火も見るって。あ、ほら、花火!たーまやー!」




いちいちやかましいやつだという立花のお小言には聞こえないふり。私だって花火くらい情緒を持って見ることくらいできる。




景気良く上がっていく色とりどりの花火。そしてそれらがパラパラと散っていく音。賑やかな子ども達の声。川に浮かぶ屋形船の灯り。視界にチラホラと映るリア充達の絡み合う指。真横からの視線。――視線?




「…ねえ、立花。さっきから視線が痛いんだけど」

「健康的な甘さの取り方教えてやろうか?」

「スルーですかそうですか。っていうか話題が元に戻りす」




ぎ、と言うはずだった音は立花の唇に呑まれてしまった。え、ちょっ、何で私の唇と立花の唇がくっついてんの。いつの間にか両頬は立花の手に包まれてるし。思考回路はショート寸前、今すぐ会いたいよなんて言ってる場合じゃない。えっと、こういう時には素数を数えたらよかったんだっけ?1、3、5、7、11、13、17、23、27、31、あ、27は割り切れる。っていうか、これ、は、




「どうだ、甘かったか?」

「…ぶっちゃけそんなのわかんなかったっていうかなんていうか……今の、何?」

「健康的な糖分の取り方だろう」




これのどこが健康的だと言い張るんだ立花の馬鹿。略して立バカ。心臓がバクバクいってて仕事しすぎて過労死寸前だしなんかやたら顔の辺りが暑い。あ、これもしかして




「ついに私もリア充の仲間入り?」

「調子に乗るな馬鹿者が」




そう言いながら私の頬を抓る立花もどこか気恥ずかしげで。これで調子に乗るなっていう方が無理。なるほど、これがリア充の心境か。悪くない、なんて。