車内に降り注ぐ日差しはもう夕陽。
道沿いに並ぶ街路樹が次々に窓の外を流れ、車はどんどん南下していく。

隣には大好きな土井先生。

私は助手席からその運転する姿を何度も見つめた。

端正な横顔。
ハンドルを握る逞しい腕。
見ているだけで胸がドキドキする。



やがて到着して車から降りると、潮の香りがした。

「ここなら手繋いでもいいですか?」

「ああ。繋ごうか」



茜色の光を浴びながら波打ち際を歩いた。


「先生、本当に連れてきてくれてありがとう」

「テストが終わったらっていう約束だったからな。お疲れさま」

「もうすぐ夏休みになりますね」

「あと1週間か。楽しみで浮かれているんだろう」

「ちっとも楽しみじゃありません。先生に会えなくなるのに」

「夏休みの間私と会わないつもりなのか?それは寂しいな」

「ち、違います」

「また今日みたいに少し遠くへ出かけよう。人目を気にせず恋人らしく出来るように」

「はい!」





夕陽が海に消えるとき、足を止めてそれを眺めた。
沈みゆく太陽を背に、海面が金色に輝いている。


ふと足元に視線を落とすと、打ち寄せる小波が始めよりも近くなっていた。

「風が強くて寒いな。そろそろ戻ろうか」

「もう少しだけ・・・」




砂浜から一段上がったコンクリートの上で、背中から抱き締められるように座った。
辺りはもうすっかり闇に沈んでいる。

灯台の放つ光と、さざめく波の音と、背中から伝わる土井先生の体温。
感じるのはこれが全て。
瞳を閉じれば世界にたった二人きり。


土井先生は左腕で私を包み込んで、右手でずっと髪を撫でていた。
右手は少しずつ移動して優しく触れる。

瞼、頬、唇、そして胸。


「あ、あの、土井先生」

「ごめん、少しだけ触らせて」



「・・・はい」



波の音を聴きながら、土井先生の優しい愛に包まれた。





『波の音を聴きながら』