───刀を振る。肉やら骨やら臓器やらを裂いていく。断末魔の叫びを聞き流す。銃声が響く。左足から全身に鋭い痛みが走る。視界が揺れる。闇に沈む。

「…──、おい、朔!」

重い瞼を半ば無理矢理開くと、上司であり同志であり友である奴の顔が目の前にあった。背中が痛いと思ったら救護所の板の上に寝かされていた。

「土方さんか…」

起き上がろうと試みるが力が入らない。左足の太股が熱い。ああそっか、さっきの銃弾は俺に当たったのか。

「俺たぶん、やばいよね」
「…弾が貫通していないらしい」
「そっか、…」

じゃあきっとこのまま足が腐ってくたばるんだな。いやこの出血だとその前に、もう。

「おわりかあ」
「馬鹿!」

簡単にそんなことを言うな、と怒ったような泣いてるような、くしゃっとした表情で言う。鬼副長ともあろう者がそんな顔するなよ。そう言ってやりたかったが、声が出なくなってきた。本当に最期らしい。ああ、試衛館から今まで、長かったようで短かったんだなあ。これが例の走馬灯とやらか。まあいい、少しくらい思い出に浸らせてくれ。

「…おい、朔!」

目を閉じて過去の浅葱色に浸っていると、土方さんに呼ばれた。再び瞼を持ち上げてやる。声音に彼の焦りを感じた。勝手に殺してくれるなよ、とは言えすぐそこに俺の死がやってきているのは土方さんも分かっているのだろう。

「ふくちょう」

これが自分の声かと疑うほどに弱々しいものだったが、彼の耳にはしっかりと入ったようだ。久々に口にしたそれはあまりにも懐かしく感じられた。

「新選組は…おれの、ほこりだ」

隊内で何かと問題は起きたし、常に死と隣あわせだし、皆に食事は奪われたし、貧乏だし男臭かったけど、楽しかったよ。

「…ありがとう」

今まで素直に言ったことなかったな。あんたには世話になりっぱなしだったけど。今度団子でもおごってやるよ…ああ声が出ない。
きっともう本当に最後だ。
俺はこの世から消えてなくなるけど、新選組は、自分たちの軌跡はずっとその名を残すだろう。

「また、いつか、あいたいな…」

どれほどの時を越えてもどんな時代でも。その時はまた昔みたいに楽しくやりたい、なんて。そんな勝手な約束をする俺は女々しいか?
目の前のきれいに整った顔は少々歪んでいたが、眠る間際に見たそれは確かに笑顔だった。





「───!!」

目が覚めると、見慣れた天井があった。そして鼻をつく医療品のにおい。俺は保健室のベッドに横になっていて、傍らにはよく見知った友人がいた。

「おお、起きた」

上半身を起こして彼を見ると、今までの違和感が全く消えていた。何故か懐かしいとも感じる。

「心配して来てやったんだぞー、感謝しろよな」

長い、夢を見た。
懐かしくて暖かい夢。
夢?ちがう、夢なんかじゃない。ああ、やっと思い出した。

副長との約束を、果たせたんだ。

「っておい、大丈夫かよ」
「ああこれ、気にすんな」

目の前にいるのは、頭も顔も運動神経も良くて女子にモテるという、俺の友人。

「ところでさ、お前新選組とか好きだよな?」
「? ああ」
「土方さんは五稜郭で、どうなったんだ?」

あの後のことが知りたかった。友人は丁寧に語ってくれた。まるで自分の思い出話をするかのように。
仲間を救うために引き返すなど、まさに土方さんらしかった。そこで敵の銃弾に倒れたらしい。無茶しやがって、なんて心の中で笑ってやる。でも涙が止まらない。

「そんなに感動したのか、朔?」

…久しぶりにその名を聞いた。

「って、は?俺は今誰の名前言ったんだ!?」

彼には俺みたいな記憶は無いらしい。それでも、こうしてまた会えたのだ。もしかしたら総司も左之もみんないるかもしれない。まだ会っていないだけで。

「俺はその名前嫌いじゃないよ」

本心からそう言ってやると、彼はニッと笑った。ふわりと懐かしい匂いがしたような気がした。

久しぶり、土方さん。




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