三、遠い足音

全く頭がついていかねェ。
何でこんなところで丸くなってんだ?
ってか、誰もいねェんじゃなかったのかよ。

「・・・。」
何をしているのか、と言う質問にも答えないソイツは、顔も見せない。
・・・話す気はないってことか。

「チ、ふざけんなよ。そういうことされると・・・何がなんでも顔見てやろう、って気になるんだヨ!」
言い終わると同時に、丸まってるソイツの腰を掴んで持ち上げた。
・・・軽っ!!
一瞬、予想していた重さよりもかなり軽いソイツに驚き手を離しそうになったが、何とか持ちこたえた。

「よお、・・・やっと顔見せたな。」
まあ、俺がそうしたんだけどな。
やっと驚いた顔がみられて、満足だ。
目の前の小さな女の顔を見てニヤリと笑う。

「・・・。」
「・・・おい、まだ話さねェつもりか?」
「・・・。」
流石に観念したと思っていたのに、予想外だ。
見たことがねェ顔だから、違うクラスの奴なんだろう。
自分の顔と同じ高さまで持ち上げたソイツの顔を見て考える。
小さな顔は整っていて、色素の薄い長い髪と合わせると人形みたいだ。
何も答えないからどうすることもできず、じっと見続けていると表情が驚きから怯えに変わった。

「っ、・・・ぃ。」
「・・・?」
「・・・。」
「お前、何って言った?」
「・・・。」
「聞こえなかったんだよ。もう一回、「っ!!」
いいかけた時、目の前のソイツがぶるぶると震え始めた。
目が潤んで、今にも溢れそうな涙に、動揺する。

「・・・ぃ!」
あ、また何か言った。
全然聞こえねェ小さい声に、小さな体、・・・それと、ついにこぼれた涙に、何も言えなくなった。

「・・・あ。」
力の抜けた手から、ソイツが抜け出した。
駆けていくその音を聞きながら、動けずにいる。

「アイツ、・・・誰。」


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