(サクラside)
「……行っちまったな」
「うん。寂しくなるね」
「……寂しくなんてないよ」
見上げた空はさっきまで赤々と光っていたのが嘘みたいに、雲一つない晴天に変わっていた。
「寂しくなんて……ない」
天を仰いで再度呟く。
「そういや、サクラ……」
「ん?」
────ポン
柔らかい笑みをしたエドに、頭を撫でられた。
「お疲れさん」
「あたしは別に…」
労われるほどたいした事はしていない。そう言おうとしたあたしの言葉を2人の笑顔が遮った。
「ずっと頑張ってたでしょ?リトを不安にさせないために」
「──……っ!」
「気づいてないとでも思ってたのかよ?あいつと仲直りしてから、気丈にふるまってんのが見え見えだったぜ」
……エド……アル…。
「……二人に言われて、初めて気づいたよ」
自分が無意識のうちに無理してた……って。
リトは迷い人なんだ。
誰も自分を知らない世界で、たった一人。
それは不安で寂しい事。
せめてあたしが力になってやらなきゃ…。
リトが安心するように。
……そう思って、リトの前ではなるべく心配させないようにしてた。誰にも……自分にも気づかれないように。
そんなあたしの空元気をエドとアルは簡単に見抜いた。
───ペタ
「サクラ!?大丈夫!?」
「おい!しっかりしろ!どうしたんだ!?」
いきなりしゃがみ込んだあたしを見て、二人はオロオロあたふたと慌てた。
傷が痛むのか!?他にも怪我させられたのか!?と、二人は聞いてくるが……理由は絶対言わない。
“安心して腰が抜けた”なんて、この二人……特にエドには絶対に秘密だ。
「──……あ、そうだ…」
未だ心配する二人を「何でもない」と軽くあしらい、左手を空に翳せば、きらりと輝くブレスレット。別れる時、リトにもらったものだ。
ルビーがついたシルバーのそれは、青い空によく栄える。
「ホムンクルスとか時空の番人とか、夢みたいな事ばっかだったけど……幻(ゆめ)なんかじゃない」
リトは確かに、ここにいた。
彼女の瞳の色と同じ深紅の宝石がそれを伝える。
『サヨナラ』は言わなかった。
『またね』も言わなかった。
今、言いたい事があるとしたら……ただ一つ。
「離れてても繋がってるから」
時空を越えた空の下にいる君に、どうか届きますように。祈りを込めて瞳を閉じた。
(リトside)
──ギイィィィ……バタン…
扉が閉まり目を開けると、そこは見慣れた世界だった。
「あ!リト!いつもより遅いから心配してたんだよ!!?」
「2、3日で帰るって言ってただろ!?なのに一週間も何してたんだよ!!」
よほど心配してたのだろうか。いつもより迫力が増した鎧姿のアル。そして…、
「小さい、エド……」
「だぁれがミジンコ豆粒どちびかぁ――――!!」
「誰もそこまで言ってないよ、兄さん」
「相変わらず心も小さいのですね。弟に宥められるなんて、手足だけじゃなく精神年齢も持っていかれたのですか?」
「ムキ─────ッ」
あぁ、煩い…と耳をふさいで聞こえない振り。
「あれ?リトってそんなブレスレットしてたっけ?」
手を耳のあたりまで上げた事により袖が捲れ、紺碧の石がついたブレスレットが外気にさらされる。
「その石……サファイアか?珍しいじゃねーか。お前が光りもんに興味持つなんて」
「しかもリトならサファイアっていうよりは、ルビーって感じなのにね」
「別に宝石が好きなわけじゃありません。サファイアにしたのは、お互いの色を交換して持ちたかっただけです。まぁ、彼女にはトパーズとかの方が似合うんでしょうけど…」
冷色である青よりも暖かい色が似合う彼女。…でも、これだけは譲れない。
「ルビーといえば、サファイアですからね」
「いやいや、意味わかんねぇし。つーか、彼女って誰だよ?」
異世界……しかも“ポケモン”なんて話したところで、彼らは信じるだろうか?
口元に手をあて、暫く考えた末に出た言葉は自分でも不思議としっくりきた。
「……旅人…」
「「はぁ?」」
自分が時空を守る番人ならば、サクラは異世界を旅する……旅人。
「異世界の旅人……です」
「お前、頭大丈夫か?」
──パン バシィッ ゴン!!
エドの頭に大きな氷塊が落ちた。
私の大切な思い出。たった2日間だけだったけど、私の守りたい世界が1つ増えた。もしもの時は扉をこじ開けてでも守りに行くよ。
「離れてても繋がってるから」
時空を越えた先にいる君にも、ずっと笑顔が絶えないように。私は祈りを込めて空に手を掲げた。
fin.
───────────………fin?
最終章→
強くてニューゲーム♪