紅×異世界 | ナノ


ダイヤモンド 2  




───パキッ!
エンヴィーが持っていた砂時計を握り潰すと空に赤い光が走り、空間が歪んだ……と思った刹那。

──ドスン! ドスン! ドスン!
「ギャオオオァァア!」
「ギィイイエエエァァ─!」
「ぐるるるるうぅぅうう〜」

光の中から大量のキメラ達が現れた。

「なっ!何だこいつら!」

人間じゃない。けれど普通の動物でも、ましてやポケモンでもない。グロテスクな……バケモノ!

「これが合成獣──キメラです」

リトは顔をしかめ、忌々しそうに言った。

「にしても、なんつー数だよ…」

──パンッ
エドはとにかく数を減らそうと思い、大砲を錬成しようとするが、

「っ!兄さん!!」
「エド、危ない!!」
「っ!?」

──ドカッ
エドの背後にゴリラとヤギが合体したようなキメラが現れ、エドを殴り飛ばした。

「うああああっ!」
「兄さっ……!」

吹き飛ばされたエドをアルが受け止めようとするも、その衝撃は想像以上に強く、二人とも数メートル飛ばされてしまった。

「エド!アル!……っ」

サクラが助けに行こうとしたが、その進路をキメラ達が塞ぐ。

「手間のかかる兄弟ですね……っ、どうすれば…」
「リト、あの二人ならきっと大丈夫だ!話を聞く限り、やわな旅はしていない!」

自分の身ぐらい自分で守れるはずだ。それより今はやるべき事がある。

「このキメラ達をなんとかしないと…」

キメラ達は吹っ飛んで行ったエドとアルには興味がないのか、はたまたそうするようにエンヴィーが命令したのか、サクラとリトを取り囲むようにして輪になっていた。

蛇と鳥が合体したようなキメラは大口を開けて二人を威嚇し、猪とワニが合体したようなキメラは前足で今にも突進してきそうな勢いで地面を蹴っている。
空にはコウモリのようなキメラが翼を広げて飛び交い、先程エドを吹っ飛ばしたゴリヤギはいつの間にか増えていた。

「ったく……作ったやつ趣味悪すぎ」
「同感です」

サクラとリトは吠えるキメラ達をうんざりと見た。

「リトー!」

名前を呼ばれてリトがそちらの方を向けば、いつの間に登ったのだろうか、木の枝に座りながらエンヴィーがニコニコと笑っている。

「死なないでね♪」
「言われなくてもあなたを殺すまで死ねません」

リトはキッパリと言うと、再び視線をキメラ達に戻した。

「……ざっと数えて30……いえ、40頭ぐらいでしょうか?」
「ああ、一人20頭ずつだな」

口で言うのは簡単だが相手は獰猛なキメラ達。サクラとリトは背中を合わせて立ち、リトは紅い刀を、サクラはモンスターボールをそれぞれ手に持って構えた。

「(……そういえば…)」

飛びかかる瞬間を今か今かと待つキメラ達を前にして絶体絶命の状況にも関わらず、リトはフッと笑みをこぼした。

「どうしたんだ……?」

八方塞がりのピンチなのに後ろから聞こえた含み笑い。サクラは訝しげに尋ねた。

「すみません、たいした理由ではありません。……前に現世で親友と一緒に見た映画の中にもいたんですよ。悪者を相手に互いの背中……つまり、後ろをあずけて闘う二人の少女が」

その闘い方が出来るのは互いを強く信じ合う者同士のみ。

「へー。今のあたし達と同じだな」

───トン
触れた背中から伝わる相手の体温。それだけで心が落ち着く。

「……で?その二人は勝ったのか?」
「窮地に陥りますが、小さなヒーローに助けられます」
「小さなヒーロー……ねぇ…」

自分達も“助けて”と願えば、もしかしたら金髪のヒーローが飛んでくるかもしれない………でも!

「ヒーローを待つだけのヒロインなんて、あたしの柄じゃない!」
「奇遇ですね。私もそう思ってました」

守られるだけの弱い自分なんて、まっぴらごめん。助けを求めるだけのヒロインなんて願い下げ。
二人は口角を上げて前を向くと、得物を持つ手に力を込めた。

「意見も一致したようですし、さっさと片づけましょうか?」
「OK。後ろは任せたよ」
「了解です」


信じる仲間に背中を託し、眼前の敵を撃砕せよ!


「さぁ、楽しませてよ…」

エンヴィーの声を合図にキメラ達がサクラとリトめがけて、いっせいに飛びかかった。

2009.04.17


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