紅×異世界 | ナノ


ルビー 2  




「あたしのポケモンはこの子だ!ピカチュウ……READY GO!」
『ピッカピカチュウ!』

親子対決の疲れはもう癒えたのか、元気よくピカチュウが飛び出した。その愛らしい姿に思わず見惚れていたリトだが、エドの、早くしろーー!と言う声で我に返り、エドを一睨みしてからモンスターボールを放った。

「お願いします……メタモン!!」

放たれたボールから出て来たのは、何やら紫色をしたスライムのようなポケモン。

「メタモン、“へんしん”!」

リトがそう叫べば、メタモンはゆっくりとその姿を変えていった。

「なっ、何だ!?」
「どんどん姿が変わっていく…」

エドとアルが驚愕していると、リトがメタモンについて解説した。

「メタモン。へんしんポケモンです。全身の細胞を組みかえて、見たものの形そっくりに変身する能力を持っています」

ポケモン図鑑並みの知識は美香の教育の賜物だ。リトが解説し終わる頃には、メタモンはピカチュウそっくりに変身していた。

『メッタメタモン!』
「ピカチュウになった!?」
「さっきリトが“へんしん”って言っただろ?それがメタモンが使える唯一の技なんだよ」

他の攻撃ワザに比べると遥かに劣っていそうな能力だが、一番やっかいなのは…。

「つまりメタモンは今、完全にピカチュウをコピーしたんだ。見た目も……技もな」
「「技まで!?」」

本来ノーマルタイプのメタモンだが、これにより電気タイプの技も使えるようになった。しかし、相手と同じ技が使えるからといって、強くなったわけではない。やはり勝敗はトレーナーにかかっている。

「さあ……始めましょうか、サクラ?」
「あぁ。使用ポケモンは一体」
「時間制限は無しです」
「どちらかのポケモンが戦闘不能になったら終了」
「では、いざ尋常に…」

サクラとリトは交互にルールを確認してゆく。そして声高らかに叫んだ。

「「勝負!!」」

バトル……スタート!!
先に仕掛けたのはリトだった。

「メタモン!“電光石火”!!」
『メタッ!』

ピカチュウの姿をしたメタモンが一瞬で間合いを詰め、ピカチュウの懐に飛び込んだ──…しかし。

「かわせ!ピカチュウ!!」

ギリギリまで引きつけたところで、ピカチュウは跳んでかわした。凄まじい反射神経。

「そのまま“アイアンテール”」
『ピッカァ!!』

ピカチュウの尻尾が光り、メタモンめがけて振り下ろされる。これに対してリトは慌てることなく冷静に指示を出す。

「メタモン!ピカチュウの尻尾に“電気ショック”!」
『メター!!』

ピリリと静電気のようなものがメタモンに流れると、メタモンの体から放電され、ピカチュウのアイアンテールとぶつかった。
電気タイプの技だったので、ピカチュウのダメージは皆無に等しい。

「やるなー、リト!今のはコンテストバトルだったら高ポイントだと思うよ!」
「それはどうも」

お互いにまだ本気を出してはいない。しかし、分かった事が一つ。油断したらやられる!!

「(あのピカチュウ……なんてスピード…。これはうかつに近づけませんね)」
「(初心者って言ってたけど……あの臨機応変さ。戦い慣れてないと出来ない!)」

冷や汗と武者震いが同時に起こる。一瞬の判断ミスが命取りになるこの状況で、次に指示を出したのはサクラだった。

「ピカチュウ、“スピードスター”!」
『ピッカ ピカッ!』
シャアァァー!

ピカチュウは頷くと尻尾を振り、無数の星をメタモンに向かって飛ばす。綺麗な星々が空を切り、メタモンを狙った。

「“高速移動”!!」

リトがそう叫べば、メタモンは飛んでくる星々を目にもとまらぬ速さでかわしながら、ピカチュウの元へと走る。

『メタッ!』
『ピカァ……ッ』

その距離、およそ1メートル。

「今度は逃げれませんよ?メタモン、そのまま“体当たり”!!」
『メッタァ!!』

メタモンの体がピカチュウにヒットした……と、思われたのだが。

スゥ──……
「えっ!?」

そこにいたはずのピカチュウの体は消え、

「ピカチュウ、“気合いパンチ”!!」
『ピカァ!!』

──ドォオン!
『メタァアッ!』
「っ……メタモン!」

メタモンの体にピカチュウの強烈な気合いパンチが炸裂した。衝撃によりメタモンは数メートル吹っ飛ばされてしまう。

「あれは……マースさんとの試合で見せた、2大影分身!!」

エドが先ほどの試合を思い出して言った。
2大影分身。通常の影分身とは違い、二体だけしか影分身しない代わりに、その二体は本物とうりふたつ。見破るのはまず不可能だ。

「指示なしでそんなレベルの高い技を……さすがチャンピオンと言ったところですか」

私なんかでは足元にも及びませんね、とリトが言うとサクラはニヤリと微笑んだ。

「謙遜なんかしなくていい。かわし方、ワザのタイミング……リトだって素人じゃないのは見れば分かる」

サクラ(チャンピオン)が言うのだから間違いないのだろう。現に今、リトはサクラ相手に勝らずとも劣らぬ試合をしている。いくらサクラのポケモンを使っているとはいえ、普通のトレーナーではこうはいかない。

「でも、初心者にはかわりありません。……手加減してくれますか?」
「まさか!本気でいかせてもらうよ!!」
「…それでこそサクラです」

つかの間の休憩タイムは終了し、再び戦いの火蓋が切られた。

「メタモン。反撃開始です!“影分身”しながら走って!」
『メタッ!メタッ!メタッ!!』

合図と共に十数体のメタモンが現れる。これが普通の影分身だ。ピカチュウはメタモンに周りを囲まれてしまった。

『ピカッ!?』
「落ち着け、ピカチュウ! 全部のメタモンに“10万ボルト”!」

この程度でサクラは動じない。冷静に状況を判断し、的確な指示を出す。サクラを信じ、全力の信頼を寄せるピカチュウもまた慌てることなく頷き、頬にある赤い電気袋に電気をためると一気に電撃を解き放った。

『チュヴゥゥゥ――!!』

──バチバチッ バリッバチッ!
それらは瞬時に影分身を消していく。しかし、肝心の本体がいない。

「っ!?…後ろだ!ピカチュウ!!」

咄嗟に気づいたサクラが叫ぶも、振り向いたピカチュウの前には既に攻撃体制のメタモンが尻尾へと渾身の力を溜めていた。

「メタモン……“叩きつける”!」
『メッタァァ!!』

──がしっ!
メタモンの尻尾がピカチュウをとらえ、そのまま地面へと叩きつけようとしたその時、またもやピカチュウの体が消えた。

「やはり影分身でしたか……メタモン!後ろに向かって、“スピードスター”!」

メタモンが尻尾を振り、スピードスターを放った先には…。

シャアァァ──!
『ピッカァ!?』

驚く、ピカチュウ………ではなく。

スウゥ──………
『メタッ!?』
「そんなっ……また影分身!?」
「そう言う事だ!」

本物のピカチュウはメタモンの頭上。太陽を背に不敵に微笑む。

「とどめの“アイアンテール”!!!」
『ピッカァ!!』

ピカチュウの尻尾が光り、硬度が増していく。この距離では逃げられない。

「くっ……」
「2大影分身を見抜いたとこまでは良かったんだけど……詰めが甘かったな!ピカチュウの最高は3大影分身だ!!行け!ピカチュウ!!!」

サクラの合図でピカチュウの尻尾が振り下ろされた。直撃する。誰もがそう思った………が。

「詰めが甘い、ですか。……それはどうでしょう?」
「っ!?」

絶体絶命のこの状況でリトの口角が上がった。何を企んでいるのか、そう考える暇も無く意表をついた指示がバトルを裂く。

「メタモン……“電光石火”でかわして!」

刹那、メタモンの目がカッと見開いた。

──シュッ  ドゴォッン!
紙一重でメタモンがかわした事により、メタモンの側にあった岩がピカチュウのアイアンテールを受けて粉々に砕けた。まともにくらっていたら危なかっただろう。

「“3大影分身”には驚きました。あと一瞬気づくのが遅ければ……危なかったです」
「“電光石火”でかわすなんて……こっちこそ驚いたよ」

緊張が走る。少しでも気を抜けばその瞬間、勝敗がつく。互いが互いの探り合い。
自分がこうしたら、相手はどう返してくる?いや、まずは相手の出方をうかがって……ダメだ!それじゃ勝てない!!脳をフル回転させ、神経を研ぎ澄ませろ。それと同時にポケモンと呼吸を合わせ、バトルを肌で感じる事が出来なければ…──勝ち目はない!

そんな二人のバトルを少し離れたところで見守る、エドとアル。

「……っ」
「すごい……」

最初こそ、どっちが勝つだろう?や、ポケモンってすげーんだな、などと談笑を交えて見物していたのだが、今は瞬きすらその間を惜しむ。
見逃したくない。いや、違う……見逃してはいけないのだ。サクラとリトが自分の持てる力、全身全霊を捧げたこのバトルを自分たちはきちんと見届けなければいけない。

「……っ…」

手に汗握るとは正にこの事なのだろう。真剣な表情で見つめ合う二人の少女から、目が離せない。

時折吹く風が湖面を波立たせ、木の葉を揺らし、二人の髪をなびかせる。その光景は見るもの全てを魅了し、悠久の時を感じさせた。だが、この世に永遠など存在しない。このバトルも終わりを迎えようとしていた……──

「リト……あたし今、すっごく楽しいんだ」
「奇遇ですね。私もです」

出来ればもっと戦っていたい……けど!

「やっぱり勝敗はつけとかないと気持ち悪い!」
「賛成です。そろそろ決着をつけましょうか?」

ひときわ強い風が吹き、それまでの激しいバトルでほどけかかっていたリトのマフラーが飛ばされた。それすら眼中にない。二人の目に映るのは、目の前にいる………最強の相手。好敵手だけだ。

「小技でチマチマやったって、つまんない……な。本気でいかせてもらうよ?リト…」

サクラの眼光の鋭さが増し、その気迫が離れているエド達のところまで伝わってくる。

「(これが……チャンピオン!)」

触れていない。なのに、手足が痛い。普通の人間なら後ずさりしそうなその気迫に、リトの頬を冷や汗が伝った。いつ以来だろうか?こんなにも相手が怖いと感じるのは?だが、リトにもプライドがある。

「戦いにおいて、本気を出すのは久しぶりです」

リトもまた覇気を放つ。

ピリッ…ピリッ……とサクラとリトのそれに共鳴するかのように、ピカチュウとメタモンの電気袋に電撃がたまっていく。次の一撃で………勝負が決まる!

「ピカチュウ…」
「メタモン…」

二人はすうぅっと息を吸い込み………──叫んだ!

「「“ボルテッカ――”!!!」」
『ピカッ!』
『メタッ!』

ピカチュウとメタモンがその身に電気を纏いながら走る。超スピードの攻撃。走る火の玉のような二体はどんどんスピードを上げ、一直線に相手へと向かって行った。

『ピカピカピカピカ…』
『メタメタメタメタ…』

そして、その時は訪れた。

『ピカピッカァっ!!』
『メタメッタァっ!!』
──ドカァァン!

「「うっわあぁぁ!!」

激しくぶつかり、それによって生じた衝撃波でエドとアルは吹っ飛ばされた。

「………ッ!」

サクラとリトは袖で口元を覆い、舞い上がる砂煙がおさまるのを待つ。

どっちが勝ったのか?それとも相打ちなのか?ドクドクと脈打つ心臓をおさえ、静かに二体のポケモンがいる場所を見据える………と。

「「……あ!」」

砂煙の先に立つポケモン。震える小さな体を必死に起こし、大地を踏みしめ立ち上がる。その凛然たる姿、正に…

『ピッ……ピッカチュウゥッ!』

────…雷神の如し。


2008.12.23 いろは遊


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