紅×異世界 | ナノ


ゴールド 1  




(サクラside)

扉を開けると、そこには不思議な世界が広がっている───……なんて、おとぎ話の中だけだと思ってないか?

それは世界の広さを知らないだけ。世界ってのはあんたが思ってるより、ずっといっぱいあるんだ。動物だけの世界や科学技術が発達した世界もあれば、不思議な生き物が存在する世界もあるし、人を平気で殺す世界だって……ある。
あたしはこの『秘伝の扉』を使って、いろんな世界を旅してきた。

その中で最近知り合った二人の兄弟。兄のエドワードと弟のアルフォンスなんだけど……初めて会ったとき、エドが兄さんに似てて正直驚いた。見た目とかは全然違うけど、なんて言うか雰囲気が似てるんだ。

あたしの兄さんは……って、湿っぽくなるから今はいいか!

とにかく!エド達は元の世界に戻りたいらしくて、あたしもそれに手を貸す事に決めた。今、ちょうど親バカヤロー(まあ、父さんなんだけど…)と不本意なバトルを終えて、家の庭で休憩してたんだ……────





「ピカチュウ、ご苦労様」

父さんとのバトルで頑張ってくれたピカチュウを膝に乗せて頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。

ピカチュウはあたしの大切なパートナーだ。もちろん、他のポケモン達も。

「しっかし、サクラって強いんだなー」
「本当、びっくりしたよ!さすがチャンピオン!!」

エドとアルが興奮冷めない様子のまま、嬉々としてあたしを褒め称えた。ちょっと照れる。

アルが言ったように、あたしはこのカントー地方でポケモンチャンピオンをしていて、いくら父さんがジムリーダーだとしても、ちょっとやそっとじゃ負けはしない。…………でも。

「強いのはポケモン達だよ… あたしは強くなんてない…… 」

撫でていた手を止めると、心配そうなピカチュウの瞳がこっちを見ていた。

「……大丈夫だよ」

自分でもわかる。あたし、今、無理して笑ってる。ダメだな。こんなの、あたしらしくない。
少しだけみんなの空気がしんみりしてしまった、その時。

『ピカッ……!?』
「どうした?」

ピカチュウの耳がピクンッと動き、何かを感じ取ったように空を見上げた。そんなピカチュウの異変に気づいて尋ねると、ピカチュウはあたしの膝の上から飛び降り、森の方へと駆け出した。

──ダッ!
『ピカピカッ!!』

何かあるのか?ピカチュウは懸命にあたし達を呼ぶ。“ついて来て!”と。

「……サクラ…」
「ああ!行ってみよう!!」

あたし達三人はピカチュウを追いかけて、森の中へと入って行った。





「……何だよ、あれ…」
「ねぇ、サクラ?あそこって、いつもあんな風に光ってるの?」
「いや、あたしも初めて見る…」

森の奥。小さな湖の畔の上空は、そこに新しい太陽でもあるかのように、赤々と光っていた。あたしはマサラタウン出身だけど、ここらであんな光は見たことない。

「とにかく……戻れ、ピカチュウ!!」

モンスターボールを翳せば、そこから出た赤い光がピカチュウを包み、ボールへと消えていく。光の正体がわからない以上、ポケモンを出しておくのは危険だからね。

「し、新種のポケモンとかじゃねぇよな?」
「う〜ん……この辺りにあんな強烈な光を放つポケモンはいないはずなんだけど……」

ポケモン図鑑を翳してみても反応はなし。一先ずポケモンじゃないって事は分かった。……なら、あの光は一体…?

「もしかして……幽霊とか?」
「イヤーーーっ!アル!変な事言うんじゃねーよ!!」
「え、あっ、ごめん!」
「何だ?サクラって、幽霊が苦手なのかよ?」

エドがニヤリとあたしを見る。

「い、いやっその、あれだ……ほら…そのー…………あーっ!」

エドのあやしい光ならぬ、あやしい笑みから逃れるべく首を捻らすと、あんなに強烈だった光が小さくなっていくのが見えた。光はどんどん小さくなっていき、光が完全におさまるといつもの見慣れた風景に戻った。

見慣れた風景。だた少し違うのは……、

「女の子……?」
「あいつ何であんなとこに突っ立ってんだ?」

ちょうど、光のあった場所の近くでボーっとしている少女にあたし達三人はくぎ付けになる。

いや、ボーっとじゃない。無表情なんだ。感情を感じない。何を考えているのか読み取れない表情。

陽の光を反射させる銀髪、それと対照的な黒いコート、紅い瞳を持つ見慣れない少女にあたしは言いようのない恐怖を感じた。それが何故かは分からない。けど隣を見ればエドとアルも同じ気持ちなのか、エドの眉間にはしわが寄り、アルの額には冷や汗が伝っていた。あたし達はその少女からどうしようもなく目が離せずにいた。

「……誰ですか?」
「「「…ッ!」」」

さすがに視線に気づいたのか、少女がゆっくりと振り向いた。振り向いた少女は初めてその表情を変える。

「……エド?……アル?」

驚いたように二人の名を呼び、今度はあたしを見て、その瞳をこれ以上ないってくらい見開いて言った。

「……美…香…?」

そう呟いた少女の瞳はさっきまでの恐怖を感じさせるものではなく、混沌と渦巻いていた。



(リトside)

その日は、何かが違った。何が違うかと問われれば、わからないとしか返答できない。そんな些細な違和感。しかし、その小さな変化が後にとんでもない不運……いや素晴らしい出会いになるとは、その時の私には到底理解できなかった。



いつものように現世からハガレン世界へ移動しようとして時空の鍵を翳すと、扉から出る光の違和感に思わず首を傾げた。

「……光が赤い…」

少し気になったものの既に扉は開いていたため、私はそのまま扉の中へ入ったのだか……まさか、あんな事になるなんて。

扉の中の光もいつもより数段眩しい。おまけに体が引っ張られる感じがして気持ち悪い。それでも一応、世界を移動する事は出来たみたいで、目を開けたそこはさっきまでいた現世ではなかった。……ただし、ハガレン世界でもなかった。

ここは、どこ?見慣れない風景だが、同時に不思議な懐かしさも感じる景色。豊かな自然が広がる世界に私は迷い込んだのだろうか。
見渡す限りの綺麗な湖と青々とした森は、正に山紫水明。そんな事を考えていると何やら視線を感じた。

「……誰ですか?」

私は咄嗟に腰に挿してある拳銃に手をかけて振り向く。気配は三つ。殺れない人数ではない。けれど、私の目に映ったのは想像もしない人物だった。

エドとアル。そして、こんなところにいるはずのない、私の大切な親友。

「……美…香?」

彼女にそっくりな少女が私を見ていた。


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