紅の幻影ss | ナノ


恋する卯月 4  




(理冬side)

「奈良やー!鹿やー!!」
「隼斗ったら、当たり前のことを大声でバカみたいに叫ばないでいただけます?」
「そうよ!こっちまでバカだと思われるじゃない!」
「何言うてんねん!鹿やで!鹿がこんなにおるんやで!テンション上がるやろ!!」
「あ……隼斗、こんな鹿が多いとこで鹿せんべい振り回したら…」
「ギャーッ!!」
「…鹿にかこまれるぞ……って、もう遅いか」
「さ!隼斗のことはほっといて、さっさと行きましょ!」
「そうですわね、知り合いと思われるのも恥ずかしいですし」
「隼斗ー、先に行ってるから早く追い付けよー」
「おいコラ!待てや、お前らァアア!薄情者ォォォォオオオ!!」



「…え?何でこのメンバー?」

おかしいですよね?綾瀬弟たちは隣のクラスですよね?何故さも当たり前のように、一緒に行動しているのだろか?担任が決めた班分けはどうやら無意味だったようだ。

「そら、みんなでまわった方がおもろいからな!」
「…っ!」
「あら、もう追い付いたんですのね、残念」
「てか、鹿くさっ!!」

ボロボロになった少年、えっと名前は確か……

「吉川 隼斗。んで、あっちが鬼之嶺 千尋」
「あ…りがとうござい……ます」

ギャーギャー騒いでいる綾瀬美香、吉川隼斗(よしかわ はやと)、鬼之嶺千尋(おにのみね ちひろ)の代わりに綾瀬弟が教えてくれた。姉と一緒にいることが多いのでシスコンかと思ったが、なかなかどうして面倒見のいい出来た弟だ。空気を読み、さり気なくこのメンバーをまとめている。彼みたいな人間が人の上に立てばこの国の政治も少しはマシになるのではないだろうか。
現に、彼の周りにいる人たちはとても幸せそうにはしゃいでいる。

「……ずいぶん楽しそうですね。いつも、ああなのですか?」

何気なくそう尋ねれば、綾瀬弟は途端に険しい顔つきを見せる。

「お前……しゃべり方が堅苦しい」
「……?」

急に神妙な面持ちになったかと思えば、今度はげんなりとした表情をする綾瀬弟。そんなに呆れるようなことだっただろうか。そこまでドン引きするような視線を送るのはやめて欲しい。さすがに傷つくから。

「言葉使いとか言い回しとかいちいち堅苦しいんだよ」
「そうそう!私も前から言おうと思ってたのよね」
「もっとリラックスしてみてはどうかしら?」
「たまにはボケてみ?ツッコんだるで?」
「隼斗、それは無茶振りだろ」

いつの間にか綾瀬さん達も会話に加わり、四人いっぺんに話しかけられた。私は聖徳太子ではない。
それに堅苦しいと言われても、しゃべり方なんて癖みたいなものだからそう簡単には改善できない。それこそ綾瀬弟の言う通り、無茶振りだと思……

「とりあえず、その『綾瀬弟』ってのはやめてくれ!」
「あれ?声に出てました?」
「……たまにな」

私としたことが。
しかし、綾瀬弟……いや、綾瀬 明(あやせ あきら)を呼ぶ際は『綾瀬さん』になってしまい姉の方と区別しにくい。
(『綾瀬くん』は微妙に恥ずかしいので却下)

私が悶々と呼び名を考えていると、獣臭を放ちながら吉川隼斗がけろりと言う。

「だいたい、友達なんやから名前で呼んだらええやん」
「……友達…?誰と誰がですか?」
「それは素か?ボケか?ツッコミ待ちか?」
「きっと隼斗と友達なのが嫌なんですわね。心中お察ししますわ…」
「千尋さーん!?オレ、お前に何かしましたか?」

シクシクといじける吉川隼斗を慰める綾瀬…明。

「……名前で…か……」

考えたこともなかった。それ以前に私と彼らが友達だなんて発想、私には持ち合わせていなかった。私といればいずれ必ず時空の番人としての業に巻き込むことになる。だから、私は必要以上に現世の人達から距離をとってきた。私が離れれば、みんな離れていく。別に私は独りでもかまわない……そう、決意したはずなのに…。

胸の奥にわき上がる熱い感情に戸惑う私の背中を誰かがポンッと優しく叩いた。

「ほらほら、さっさと行くわよ!明!隼斗!千尋!それから…──理冬ッ!」

聞きなれた声に名前を呼ばれた。
自分の名前を思い出したような、そんな不思議な感覚に目の奥が熱くなるのを覚えた。


あなたの

(みっ……みりん!)
(違う!)
(か……み、……みか、ん!)
(おしい!最後のが邪魔!)

(なー、あれいつまでやるんやろか?)
(理冬が姉貴の名前呼ぶまでだろ)
(先にランチにいたしましょうか)
((賛成。))




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いざ呼ぶとなると、照れくさい。



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