(理冬side)
──ピンポーン ピンポーン
─…しーん…
ピンポンピンポンピンポンピン…
──ガチャッ
「……はい」
「おっはよー!」
「………。」
開けた扉の向こうに爽やかな笑顔を確認すると同時に扉を閉めようとするが、それよりも早く残り20pばかりの隙間に足を入れられた。現在、朝の6時。
突然家へとやってきた綾瀬姉弟はここ連日私に付きまとう(主に姉の綾瀬美香)変わった人達だと思っていたが、ここまでやるとは誰が予想しようか。
「……ご用件は?」
「迎えにきたの!」
ドアノブを手前に引いてみるがびくともしない。それどころか彼女は隙間に手を入れとんでもない力でドアをこじ開けながら、ひどく爽やかに微笑んで言った。あなたはアームストロング家の親戚か何かですか、と問いたくなる。
「…なぜ?」
「今日は遠足でしょ?だから迎えにきたの!」
「……え?それだけ?」
そのために私は起こされたんですか?そもそも、どうやって家を調べたんですか?と言うか、こんな早朝から…などと言いたいことはいろいろあったが、低血圧のため話す気力もない。
「……用意するので中で待ってて下さい」
私は仕方なく二人を家へとあげ、本来行く気のなかった遠足の準備にとりかかった。
「おっじゃっまっしまーす!」
「おじゃまします」
備え付けの家具しかない、食器も一人ぶんの私の部屋。私の部屋と言っても私自身は滅多に帰ってこないため、主のいないこの部屋に生活感がないのは当然だろうか。ソファーに座って待つ綾瀬美香はキョロキョロと部屋を見渡していた。
「へぇー、物が少ないのね」
「…‥気になりますか?」
「うーん、イメージ通りかな?」
彼女は屈託のない笑顔で答えると、綾瀬弟と小声で相談する。
「第二の部室にいいな、ここ。駅からも近いし…」
「千尋と隼斗にも教えてお泊まり会とか楽しそうね」
…何やらよからぬ計画は聞かなかったことにしよう。
1時間後、用意を終えた私達は3人で中学校へ向かった。学校へ着くとクラスの人達がヒソヒソと私を見て囁く。まあ、そうだろう。小学校時代は遠足、運動会なんて勿論、修学旅行ですら欠席していた私が来たのだから。
──ヒソヒソ
──こそこそ
「……フッ」
たかが中学生の陰口なんて、『軍の傀儡』『雪女』と罵られることに比べたら可愛いものだ。何も気にすることはない。私はいつも通り聞こえないフリをして目を伏せる……──と、
──ポンポン
「じゃ、また後でな」
綾瀬弟が私の頭を撫でた。姉によく似たその笑顔は、少しだけお父さんにも似ていると思ってしまった。他人の空似というものが実在するのを初めて知った。
自分のクラスのバスへと乗り込む綾瀬弟の後ろ姿を私はぼんやりと見つめる。頭に残る暖かな手の温度は、私の失った体温か、それとも…。
──…トクン
なんだろう、今の気持ちは。何もしてないのに胸に取り込んだ空気が軽くなった気がした。
「ほら、私達も早く行くわよ!」
「えっ……わ!」
ぼーっとしたままの私の腕を今度は綾瀬さんが掴んで歩き出す。掴まれた腕が、地味に痛い。
「あのっ……私といるより…」
他の子達のところへ行ってはどうですか?
私といるよりもきっと…────そう言いかけた私の言葉を遮るかのように綾瀬さんは振り向いて、先程の綾瀬弟と同じようにして笑った。
「あたしは、あなたが来てくれて嬉しいよ」
その笑顔がまるでお日さまみたいで、何故だか少し泣きたくなった。
素直な気持ち
バスの中 1号車
(zzz……)
(寝顔も可愛い……っ!)
バスの中 2号車
(ふぁ〜……)
(なんや、明?えらい眠そうやな?)
(夜更かしでもしたんですの?)
(……夜更かしじゃねぇ、早起きだ…)
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明、千尋、隼斗は同じクラス!