(美香side)
────………目の前で何が起こっているのか、理解できない。
いつものように校長のなっがぁ〜〜い、『ありがたいお話』を聞いていた。そしたら、いきなり空が黒くなって、雷みたいな光が校庭に落ちたと思ったら、バケモノが現れた。
熊のようなゴリラのようなモノ。
羽が生えた蛇のようなモノ。
言葉では言い表せないようなモノまでいる。
周囲は悲鳴に満ちているが、あたしは驚きと恐怖で叫ぶことすらできない。
「……何よコレ……まるで、キメラ……っ」
やっとのことでそう言うと、蛇のようなバケモノと目が合った。
まずい!本能がそう叫ぶ。なのに、足が石になったみたいに全く動かない。
──ドクン!
「…──あたしの友達に…───……!」
「──……綾瀬さん!」
だから、…─泣かないで─……
頭を過った走馬灯。
今まで忘れていた……、ううん。忘れたフリをしていた記憶。これは3年前のあの日…──
思い出と現実が交錯するあたしに容赦なく降りかかる災難。血走った眼のバケモノが大きな口を開けて襲ってきた。
──殺されるっ!!
ギュッと目をつぶり、来るであろう痛みに構えるが……一向にその気配はない。
恐る恐る目を開けたあたしが見たものは、真っ二つに切り裂かれたバケモノと、バケモノの血が滴り落ちる刀。
そして、その刀を握る───少女。
「大丈夫ですか?」
こちらを振り返り言う少女は、見慣れない格好をしていた。
白いリボンのついた黒いコート。膝丈上の白いブーツと、同じく真っ白なマフラー。ゴスロリみたいな、とにかくあまり日本では馴染みのない服装だった。
しかし、それ以上に少女の容姿が目に付いた。
日本人ではまず有り得ない銀髪。全体的にモノトーンの印象を受ける彼女の……唯一、その存在を誇示するかのような異色の瞳。まるで、血のような深い紅色だった。
「危ないので離れてて下さい。他の人も落ち着いて…一カ所に集まって下さい。散らばると守りにくいです。」
口調を変えず淡々と話す少女は再びバケモノたちの方に向き直り、構えた。
「………………理冬…?」
少女に問う。
あたしの周りにいた友達が、『はぁ?』という感じの顔をしている。
自分でも有り得ないと思った。だって、あたしの知ってる理冬は…早起きが苦手で、運動とか面倒がって、しょっちゅうボーっとしてて。…少しだけ私に隠し事してる子。
でも可愛くて、優しくて。理冬と一緒にいると安心する。
少なくともバケモノに切りかかったり、あんな冷たい喋り方はしない。なのに…
「……理冬なんでしょう?」
少女に向かって問いかける。
心が…体が……目の前の少女を理冬だと言う。
「ねぇ!答えてよっ!!」
すると少女は振り向き、
「私が守るから………」
だから、泣かないで
「────……美香。」
あたしの名を呼んだ少女の微笑みが、理冬のそれと重なった。
「っ………理冬ーっ!!」
少女………いや、理冬はバケモノの群れに走って行った。
他の生徒は皆、校庭の隅に避難している。先生たちがあたしの名前を呼ぶけれど、行けるわけないじゃない……。理冬は、あたしたちを守るために戦ってるのよ?あたしだけ逃げるなんてできない。
理冬は次々とバケモノを切っていく。
それはすごく戦い慣れているようで、何だか理冬じゃないみたいな気がした。
「っ!理冬!後ろ!」
ライオンのようなバケモノが鋭い爪と牙で、背後から理冬に襲いかかる。それに気付いた理冬は相手にしていたバケモノに持っていた刀を突き刺して倒すと、両手を合わせ……地面に手をついた。
「……え?」
理冬が手をついた瞬間、理冬の周りの土がまるで突起のように変形し、バケモノを串刺しにした。
「両手を合わせて…って、今の…錬金術?」
『ハガレン』
あたしの大好きな漫画。
理冬は嫌いって言って、話も聞いてくれなかったけど、あたしは面白いと思う。そして今、理冬がやったのは、『ハガレン』の主人公であるエドと同じ……錬金術。
どうして理冬が?そもそも錬金術なんて、お話の中だけのはずでしょ?混乱するあたしを余所に理冬はまた両手を合わせ、錬成反応の光の中から今度は双剣を錬成した。
……やっぱり本物。じゃあ、このバケモノは合成獣──キメラなの?
何がどうなってるのかわからない。他の人も唖然とその光景を眺めている。
「面倒ですね………」
パンッ
理冬はそう呟くとキメラたちの中央に行き、両手を合わせて空高く掲げた。
シュゥゥ− パキッパキパキ
すると冷気が集まり、理冬の頭上に大きな氷の塊ができる。
「これで……終わりです。」
理冬がもう一度両手を合わせ、その氷塊に触れると氷塊は砕け散り、今まさに襲いかかろうとしていたキメラたちに次々と刺さっていった。
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