紅の幻影 | ナノ


物語は動き出す 3  



一匹はリトが殺したものの、もう一匹のキメラは依然としてエドを見ながら唸っている。

「ぐぉるるるるるる」

「こりゃあ丸腰でじゃれあうには、ちとキツそうだなーっと」

エドは両手を合わせると、敷石から槍を錬成した。だが、キメラの鋭い爪は槍もろともエドの左足を引き裂く。

「ぐ………なんちって!」

エドは切り裂かれた足を押さえるが、次の瞬間不適に笑い、切り裂かれたはずの左足でキメラを蹴り飛ばした。

「あいにくと特別製でね。」

破れたズボンから覗く、鈍い光。

「……ッ!!?どうした!!爪が立たぬなら噛み殺せ!!」

コーネロの言葉を合図にキメラが突進してくると、エドはそのキメラに右腕を差し出すように構えた。

キメラの牙が右腕に深々と食い込んだ。しかし、様子がおかしい…。いつまで経ってもその右腕を食いちぎれないでいるではないか。

「どうしたネコ野郎………しっかり味わえよ?」

エドの瞳に鋭さが増し、ゆうに100キロは超えそうなキメラが高く蹴り上げらる。

「ロゼ、よく見ておけ。これが人体錬成を………神様とやらの領域を侵した咎人の姿だ!!」

エドはビリビリとキメラによって裂かれたコートと服を破っていく。
見えてきたのは痛々しい手術痕と、

「……鋼の義肢、"機械鎧"……ああ、そうか…鋼の錬金術師!!」
「降りて来いよド三流。格の違いってやつを見せてやる!!」


───それは辛い過去の傷痕。

大好きな母の笑顔が見たい、ただ純粋にそう思っただけなのに……それは、錬金術師にとって最大の禁忌だった。

咎人に相応の報いを。罪には罰を。
二人の幼い兄弟が犯した過ち。
アルは自分達の過去をロゼに話した。

「兄さんは左足を失ったままの重傷で…今度はボクの魂をその右腕と引き替えに錬成して、この鎧に定着させたんだ」
「へっ……二人がかりで一人の人間を甦らせようとして、このザマだ」

エドが自嘲するかのように言う。

「……ロゼ。人を甦らせると言うのはこういう事です。あなたにはその覚悟がありますか?」

リトは威圧的に訊いた。全てを見透かすような紅い瞳がロゼをとらえる。リトの言葉にロゼが答えられないでいると、笑い声が聞こえてきた。

「くく…神に近づきすぎ地に堕とされたおろか者どもめ……」

コーネロが持っていた杖に触れると、沸き起こる錬成反応。法則を完全に無視した錬成が一本の細い杖をガトリングへと変える。

「ならばこの私が今度こそ、しっかりと………神の元へ送りとどけてやろう!!」

ガシャッ ドガガガガガガガ

無数の凶弾がエド達に向けられる。しかし、銃弾は全てエドが錬成した壁によって防がれていた。その隙をついてアルはロゼを奪還する。

「アル!リト!いったん出るぞ!!」
「バカめ!!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!!」

……と、言っているがそんなもの、三人にとっては何の障害にもならない。

「ああ、そうかい!」

エドはニヤリと笑うと、両手を合わせ勢いよく壁に手をついた。

バシィ ドン!

そこに出来たのは、新しい扉。

「んなあーーっ!!??」
「出口がなけりゃ作るまでよ!!」

エド達は扉を開け、逃げてしまった。


廊下を走る三人。

「扉……デザイン、最悪…」
「かっこいいじゃねぇか!?」
「……………。」

リトはエドを哀れみの眼差しで見つめた。

「なんだよ!?言いたいことあんならハッキリ言いやがれ!!」
「……………前。」

リトの指差した先には、教団の信者達が武器を持って、立ちはだかる。
エドはそれを見ると、にこ〜っと笑い、両手を合わせると……自身の機械鎧をこれまた悪趣味なデザインの凶器に変形させた。
そのままドカドカと信者達を蹴散らしていく様は正しく鬼。

数人の信者達はリトの方に向かってくるが…

「……殺しますよ?」

リトは凄まじい殺気と凍てつく台詞を放った。それには仲間であるはずのエドとアルまでもが恐怖を感じ、ロゼに到ってはアルの腕の中で震えている。

「…やっぱ、リトには逆らわない方が賢明だな」
「そだね…」

走り続けるうちに見えてきたのは、あの部屋。

「お?この部屋は……」
「放送室よ。教主様がラジオで教義をする………」

それを聞いたエドは顎に手を当てて、

「ほほ――――う」
「(あ、なんかいやらしい事考えてる)」

エドは主人公とは思えない悪どい顔をすると、さっそく準備に取りかかった。


『いやらしい事』のために、アルとロゼとは一旦別れ、エドとリトは部屋に残り配線の接続をしていた。ふと、リトがエドを呼ぶ。

「……エド」
「あ?何だよ?」

少し悲しそうな表情のリト。悲しそう…と言っても無表情に変わりはないのだが、そんな雰囲気がする。

「あまり、期待しないほうがいいですよ…」
「……どう言うことだ?」

エドは怪訝な顔をする。

「それは……」

バン!

「小僧どもォォ、もう逃がさんぞ〜」

タイミング悪く、リトの台詞の途中でコーネロが部屋に入ってきた。幸い配線の準備は終わっていたため、何食わぬ顔でエドは話す。

「もう、あきらめたら?あんたの嘘もどうせ街中に広まるぜ?」
「これ以上騒いでも、醜態を晒すだけですよ」

二人は溜め息をつく。しかし、これで諦めるような男なら苦労はしない。

「ぬかせ!教会内は私の直属の部下だし、バカ信者どもの情報操作などわけもないわ!」

コーネロはベラベラとその胸の内を話し出した。
机に座り、それをニヤニヤしながら聴く、エド。リトは阿保らしいと言う顔で窓の外を見ている。
コーネロが高笑いを始めると、エドもせきを切ったように笑い出した。

「くっ……ぶははははは!」
「………っ……クッ」

心なしかリトの肩も小刻みに震えているように見える。

「!?何がおかしい!!」
「だぁ──からあんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!つーか、リトも我慢しないで笑えよ」
「小僧!!まだ言うか!!」
「……うるさいです…クッ…それよりも、さっさと教えてあげたらどうです?」

そう言ってリトは手元のスイッチをエドに手渡した。エドはそれを受け取ると、コーネロに見えるよう持ち上げる。

「これ、なーんだ?」
「ついでに、足元も見て下さいね」

コーネロの足元には……マイク。
そして、エドの持つスイッチは………『ON』

「まっ……」


【まさか……貴様らぁーーッ!!!】

アルの持つスピーカーを通して、コーネロの声がリオール中に轟いた。


【いつからだ!!そのスイッチ、いつから……】
【最初から。もー全部だだもれ!】
【……滑稽ですね】

放送を聞いた街の人々は呆然とし、フードショップの店主はコーヒーをこぼしている。無理もない。今まで自分達が信仰してきたものが、全て偽りの神だったのだから。
コーネロは怒り、ガトリングを錬成するが、それよりも早くエドがそれを切り落とした。

「言っただろ?格が違うってよ」

勝敗は目に見えていた。だがコーネロは諦めず、石の力を使い再び錬成しようとする。……が、

──ばちぃっ

「……っぎゃああああああ」

まるで機械と融合したかのようにコーネロの腕が変形した。痛みに堪えかね叫ぶコーネロだったが、エドは「うっさい!!」と、無慈悲で強烈な頭突きをかました。

「ただのリバウンドだろが!!腕の一本や二本でギャーギャーさわぐな!!」

……何とも無理な注文である。

「…エド。その賢者の石……」

リトはコーネロのはめる指輪を見ながら言う。

「……偽物です。」

石は音をたてて壊れた。

「偽物……?ここまで来て…やっと戻れると思ったのに……偽物……」

エドはよろよろと立ち上がるとコーネロを離し、その場に崩れ落ちた。口からは魂のような物が出ている。

「おい、おっさん、あんたよう……。街の人間だますは、オレ達を殺そうとするわ……」

エドの手から起きる錬成反応。同時に建物が揺れ始める。リトは危険を察知し、その場から避難した。

「しかも、さんざん手間かけさせやがって、そのあげくが『石は偽物でした』だぁ?」

床から手や顔のような物が錬成され、次第にある形となってゆく。

「ざけんなよ、コラ!!」

錬成された物はレト教の巨大な神像。それがぐらりと立ち上がり、コーネロに近づく。

「神の鉄槌くらっとけ!!」

神像の拳が落とされた――――……



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